若手アニメーター育成事業『あにめたまご』で制作された3作のアニメが無料配信 日本のアニメーション技術を次世代に繋ぐ試み

引用元:デビュー
若手アニメーター育成事業『あにめたまご』で制作された3作のアニメが無料配信 日本のアニメーション技術を次世代に繋ぐ試み

 アニメーション制作の明日を担う人材を育成し、次世代に日本のメディア芸術を継承することを目的とする文化庁の「若手アニメーター等人材育成事業」(通称『あにめたまご』)。同事業の成果として制作された3本オリジナルアニメーション作品が、『あにめたまご』公式サイトで27日19時より無料配信される。

【写真】「あにめたまご2020 完成披露特別配信」のMCを務める声優の岩田光央と平野文。

 『あにめたまご』は、日本のアニメーションの振興と向上を目的に、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)等を通して、業界の将来を担う優れた若手アニメーター等 を育成するため、平成22年度 より開始された事業。平成31年度からは文化庁の委託を受け、一般社団法人日本動画協会が企画運営を行っている。

 有識者で構成される選定評価委員会の審査により、受託制作団体として選定された3つのアニメーション制作会社において、主に若手アニメーターを起用し、現役の監督・作画監督のもと、実制作過程の現場における実地訓練や育成講座などを実施。令和元年の夏から令和2年2月中旬までのスケジュールで、それぞれテレビシリーズの1話分となる24分程度のオリジナルアニメーション作品を各団体で1本ずつ、計3作品制作した。

 若手アニメーターの育成が主目的であるため、各作品で原画・動画制作に3ヵ月の期間を設けることを義務付けている。そうすることで、通常のアニメーション制作現場では難しい、育成側(若手アニメーター)と指導側(指導アニメーター)が必ず同じ場所・同じ時間で制作を行う事を実現。現場での濃密なコミュニケーションを伴った実地訓練を実施してきた。また、アニメーション制作の全ての工程を理解するために、若手アニメーターのアフレコやダビングへの見学・参加や、レンダリングまでの全行程への参加も実施された。

 こうした過程を経て出来上がったのは、深い世界観に裏打ちされたSFヒーローアクション『オメテオトル≠HERO』(制作団体:株式会社スピード/『天気の子』3DCGなど)、『世界名作劇場』のマインドを受け継ぎ人間をしっかりと描いた『レベッカ』(制作団体: 株式会社ベガエンタテイメント/『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』シリーズほか)、ファンタジックでちょっとコミカル、少女の活躍を期待させる『みちるレスキュー!』(制作団体:株式会社ゆめ太カンパニー/映画『デジモンアドベンチャーLAST EVOLUTION絆』ほか)の3作品。それぞれカラーの異なる瑞々しい秀作が揃った。

 今回の企画は、若手と指導メンバーの密なコミュニケーションによる技術の継承が鍵。『オメテオトル≠HERO』監督・3DCGディレクターを手掛けた粟津順は「今回、僕は若手にアニメーションにおける“演技”を学んでほしいと思いながら取り組んでみました。まだ演技論みたいなものが彼らの中にはインストールされてない状態なので、それこそ一から教えていければと思いました」と語る。また、キャラクターデザインの柴田晃宏は「2Dは本物の動きなどを見ながら自分の中で解釈して分解してリミテッドとして落とし込む作画作業ですが、3Dの物理的に正しい動きをいかに間引いてアニメっぽくしていくか? 今回の若手のセンスの問われるところです」と指導のポイントを明かした。

 『レベッカ』で指導アニメーターを務めた嶋津郁雄は「技術を身につけるのは自分の中の意欲であり、行動であると思っています。若いのだからもっと熱を出してもいい。『あにめたまご』もきちんとした意識を持ってやっていただければ発展性があると期待しています」と感想を述べる。また作画監督の川重希は「原画には使えないレベルのラフを若手に返しつつ言葉で伝え、整えられたものを“はい原画作業頑張って!”とまた戻して(笑)。嶋津さんや堀江さん(作画監督補佐)たちと一緒に試行錯誤しながら伝えたことが、みんなの身になりますように」と、時間をかけて濃密に指導した中で、若手アニメーターたちのなかに何かが残って行くことを期待した。

 『みちるレスキュー!』の指導アニメーター・及川博史は「指導にあたり『チームで物を作る中で、個々が自分の役割を把握しつつ、一つの目標に向かって作品を制作する』ことを大きく掲げ、また実作業を通して若手アニメーターたちには『自分だけでなく他者に目を向ける視点』『コンテの内容を機械的に描くのではなく、内容を読み取り考える思考』『現在の若手アニメーターの多くが苦手とする動物の描写の習得』を獲得してもらうよう努めました」と指導のテーマを説明。

 そして「そもそもこの仕事は経験こそが大事で、やってみて初めて指導に対する気づきも発生すると思うのですが、その意味では月1回の講座も有意義でしたね。新人が初めて原画を描く場合にわからないことが多い中、講座を通して段階的に知識が深まり、模索していたことも明確に見えてきたのではないでしょうか」と、現場以外で行った講座の重要性も語った。

 指導を受けた若手アニメーターは、この期間に様々な学びを得たようだ。「今回は自分で演技を考えながら描いていかなければいけなかったのですが、いつのまにか人の仕草とかをすごく意識して見るようになりましたね」「人間らしい骨格のキャラクターをやるのは初めてでしたが、パターン通りに動かすのではなく、実際の観察が必要で、人体についても勉強し直さなきゃと思いました」「モノの質感とか重さとか、ジャンルはファンタジーでも、キャラクターの動きなどはリアルを追求してしっかり描かないといけないことを学べました。大変だけど楽しかったです」「動物を描くのって難しい!」など、実地に体験して多様な気付きを得たことは財産になるはずだ。

 また、指導アニメーターと長期間制作を共にしたこともあり「作業中に行きづまると、各セクションの方がすぐ近くにいらっしゃるので何でも聞けるので、自分一人で悩む時間を減らせて、聞かないと効率も悪いと思える、そんなありがたい環境でした」「『あと1 枚こういうのを入れるといいよ』とリテイクの際にご指導いただいて、最初に自分が出したものと見比べると『こんなに違うんだ!』って」「監督や指導の方々からは逐一わかりやすく教えていただけました。辛口なときもありましたけど、自分が納得できることでもありましたので、逆にありがたかったです」など、ここでしか得られない経験も多かった様子。

 また合同での育成講座で他の若手アニメーターと出会ったことも大きな刺激になったようだ。「講座で、2Dの方々とご一緒して、つくづく思いました。『みなさん絵が上手いなあ』って……(涙)」「今回のプロジェクトを通して、才能ある同世代の存在を知って落ち込みつつ『自分も負けないぞ!』という気持ちになりました」。ほかにも「講座で他社さんのメンバーとも仲良くなり、LINEも交換しました。できればみなさんのスタジオにも行って制作状況なども見学してみたかったです(笑)」といった声も。また「アフレコ収録の現場を見学できたのが、とても楽しく、良い経験になりました!」と、原画制作以外のことに触れることが出来たことも新鮮だったようだ。

 若手アニメーターと指導アニメーターのセッションで出来上がった瑞々しい3本のオリジナルアニメーション。世界に誇る日本のアニメーションが、日本の若い世代へと継承されていく現場を感じることができるはずだ。

■参加若手アニメーター
●株式会社スピード:臼井貴音、春日井裕門、河村宥輝、桑田尚幸、桑村将舟、高木洋平
●株式会社ベガエンタテイメント:伊奈透光、神谷由季、鈴木希穂、高橋美由希、瀧澤茉夕、濱田夢子、丸山楓、諸隈瑛美
●株式会社ゆめ太カンパニー:吉田満智子、保達めぐ美、宗岡杏菜、横田珠音、王珍珍、陳雅琦

■あにめたまご2020 完成披露特別配信 & 特別展示
MCは声優の岩田光央さんと平野文さん。参加3団体のプロデューサー・監督が、若手アニメーターの育成状況や制作の舞台裏を紹介。人材育成の成果物である3作品を無料配信!
【配信期間】2020年3月27日(金)19:00 ~ 2020年4月30日(木)23:59
【配信サイト】あにめたまご2020公式WEB
https://animetamago.jp
【出演】
株式会社スピード/粟津順監督・森田淳也プロデューサー
株式会社ベガエンタテイメント/安本久美子プロデューサー
株式会社ゆめ太カンパニー/於地紘仁監督・天野幸大プロデューサー
司会:岩田光央&平野文

(C)2020 株式会社スピード/文化庁 あにめたまご2020 
(C)ベガエンタテイメント/文化庁 あにめたまご2020
(C)於地紘仁・ゆめ太カンパニー/文化庁 あにめたまご2020