福島中央テレビ・野尻英恵アナウンサー、聖火ランナー予定も中止に「『起き上がり小法師』の精神で耐えて、乗り越えて、五輪の始まりという喜びを共有できたら」

引用元:スポーツ報知
福島中央テレビ・野尻英恵アナウンサー、聖火ランナー予定も中止に「『起き上がり小法師』の精神で耐えて、乗り越えて、五輪の始まりという喜びを共有できたら」

 東京五輪が2021年に開催されることが決定した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う1年程度の延期となり、26日に福島・Jヴィレッジから始まる予定だった聖火リレーも中止となった。27日に会津若松市内で聖火ランナーを務める予定だった福島中央テレビ・野尻英恵アナウンサー(29)が「とうほく報知」のインタビューに応じ、復興五輪への思いを語った。(取材、構成・長井毅、カメラ・大好敦)

■「このまま走っても…」複雑な思いあった

 24日夜に東京五輪の1年程度の延期と聖火リレー中止のニュースが飛び込んできた。26日に福島からスタート。121日間をかけて47都道府県、859市区町村を回り、全国で五輪ムードを高める行事になるはずだった。野尻アナも27日に会津若松市内で聖火を運ぶ大役を務める予定だった。

 「個人的には落胆しました。スタートまであとちょっとのところで…。残念な気持ちはありましたが、ニュースを伝える立場としては、このまま走ってもいいのかなという複雑な気持ちもあった。五輪は平和の祭典、東京2020は復興五輪がテーマ。復興の象徴をこのような形で開催しても(世界中の)皆さんに共感してもらえるのか、と複雑な気持ちだった。最善を模索している状況で、そこでできるベストな道を見つけていくしかないのかなと思います」

 アナウンサーとして五輪に関わりたい思いも人一倍強かった。

 「机の整理をしている時に、2013年のIOC総会で滝川クリステルさんが『おもてなし』のスピーチをした時のニュース原稿のコピーが出てきたんです。入社1年目の時に東京五輪開催が決まって、すごくドキドキ、ワクワクする気持ちがあった。その時は時間的にも空間的にも遠い話。でも『東京五輪に関わってみたい』という小さな夢が芽生えた。アナウンサーとして仕事をしていくなかで『復興五輪』というテーマが決まり、県内でも野球・ソフトボールの開催が決まった。そして聖火リレーが福島からスタートする、そういうニュースを県民の皆さんと共有できることがうれしかった。そういう原点がありました」

 自己PRを大会組織委員会に提出し、2年前に聖火リレー走者に正式決定した。応募の背景には14年に旅行で訪れた豪州での経験があったという。

■「Fukushima」止まった時計進めたかった

 「現地の人たちに福島から来たことを伝えると、『今は福島に人が住んでいるの?』って言われたことがありました。こんなに普通に日常生活を送っていて、おいしい物があって、色鮮やかな景色も歴史もある場所なのに。アルファベットで書いた『Fukushima』は福島第1原発事故の時のまま止まってしまっているのかなと思いました」

 海外から見た「Fukushima」のイメージを変えたい。止まった時計の針を進めたいという“使命感”を抱いたことがきっかけだった。

 「何かできることはないかなと思ったけど、自分一人の力では無力で、できなくて。そんな中で、復興五輪の聖火リレーが福島からスタートするということが決まり、チャンスだと思って何か変わるかもしれないという兆しを感じた瞬間でした。走者に選ばれた時は、福島県民として福島の復興から前に進んでいく姿を世界にアップデートできるチャンスだと思いました」

 聖火のトーチは11年に起きた東日本大震災後に建てられた仮設住宅に使用されたアルミニウムの廃材を再利用した。デザインは南相馬市の小学生が描いた桜の絵がヒントになっている。

 「いろんな点で福島のものが重要なものとして関わっている。これまで聖火ランナー、トーチに関わる人、五輪に向けて歩んできた人たちの取材をしてニュースを伝えてきましたが、皆さん、特別な思いを持っています。その思いを絶対に無駄にしてほしくない。何か良い形で“リベンジ”じゃないですけど、必ずその思いをつなげるように発信したいなと思います」

 世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむなか、福島に来て8年目を迎える野尻アナは同県の民芸品で、七転び八起きのシンボル、「起き上がり小法師」の精神が大切だと感じている。

 「福島の人は辛抱強くて前向きなんです。1年目から被災地の取材をしていますが、東日本大震災に遭って、昨年は台風19号の被害にも遭った。どんなにつらい状況にあっても周りの人を助ける姿があった。皆さん前向きに進んできているんです」

 史上最高の感動が待っていると信じている。

 「今は世界的な危機にある。もし、これを乗り越えることができたら、世界中の人たちが喜ばしい、晴れやかな気持ちで見てもらえて、一生忘れられないような歴史に残る五輪になると思う。だから今この時も、『起き上がり小法師』の精神を持ってみんなで耐えて、乗り越えて、本当の意味で(1年後に)五輪の始まりという喜びを共有できたらと思います」

 ◆野尻 英恵(のじり・はなえ)1990年12月30日、イギリス・ロンドン生まれ。29歳。国際基督教大を卒業後、2013年に福島中央テレビ入社。特技は英語(英検1級)で趣味は旅行、世界遺産、キックボクシング。「ゴジてれChu!(月~金曜、後3時50分~)担当。血液型A型。

 ◆起き上がり小法師(おきあがりこぼし) 会津地方に古くから伝わる民芸品。本体の下部分に重りが入っていて、倒しても起き上がる仕組みになっている。転んでもすぐに立ち上がることから、粘り強さと健康のシンボルとして縁起物とされている。「家族が増えるように」との願いを込めて、購入するときには、家族の人数より1個多く買う習慣がある。 報知新聞社