木村拓哉は事務所がスターにしてくれたという意識から残留【証言から読み解くジャニーズの本音と建前】

木村拓哉は事務所がスターにしてくれたという意識から残留【証言から読み解くジャニーズの本音と建前】

【証言から読み解くジャニーズの本音と建前】#2

「何か秀でたものがあるわけでもない僕をここまで押し上げていただいたのは会社以外の何物でもない」

 中居正広が退所会見で述べた言葉である。

 中居に限らず「本当に全てを与えられていた」(※1)と感じて、恩返しのために後進育成に舵を切った滝沢秀明など“何者でもない自分を何者かにしてくれた”という感謝は、ジャニーズ事務所のタレントに共通するものである。

 選抜の基準を「やる気があって人間的に素晴らしければ誰でもいい」と語り(※2)原石の少年たちをスターにしてしまう故ジャニー喜多川氏は、さながら経営の神様・ドラッカーの「組織の目的とは凡人をして非凡なことを行わせることにある」という言葉を体現しているかのようにも思える。

 しかし、そんなジャニーズ事務所の中でも“生まれながらのスター”の印象が強いのが木村拓哉だ。90年代に“キムタク”と呼ばれ、一世を風靡したたたずまいや「自分をつくってるのは自分」「自分が自分の生産者」(※3)といった“キムタクらしい”発言からは「ジャニーズ事務所のおかげ」といった雰囲気は感じにくいかもしれない。

 ただそれも、世間の求めるイメージに合わせた部分があるだろう。映画監督・三池崇史の「24時間“木村拓哉”なんですよ」(※4)という発言が象徴するように、木村はなかなか自身の胸中や過程をさらさない。拙著「ジャニーズは努力が9割」を編む中でも、木村拓哉の章だけは、木村自身ではなく、鈴木おさむの「木村拓哉って何でもできちゃうよねって言う人は多いけど、何でもできちゃうように、彼は頑張っているんですよね。木村拓哉はまさに“努力”の人」(※5)といった周囲が木村を語る言葉を中心に構成している。

 約30年分の過去の発言を遡っても「こんなに頑張りました」といった類いの発言は、ほぼ皆無。自身も「(努力は)人に誇示する必要はない」(※6)と言う通り、“主張しない美学”を持った人なのだ。

 だからこそ誤解もされやすいが、もちろん木村は頑張らない人でも、孤高の人でもない。

「僕は『がんばる』っていう言葉の語源があまり好きじゃないんですよ。『“我”を張る』っていうことなので。そうじゃなくて、もっと周りの人たちを信頼しながら、仕事を楽しめる要素を見つけることが大事なんじゃないかな」(※7)と語る木村は、実は自分を過大評価せず、信じられる仲間を見つけることで仕事に邁進していくタイプ。

 映画の舞台挨拶などで自分を飾る言葉が「主役の」ではなく「俳優部の」といった表現になるのはその表れだ。極め付きには「木村拓哉とは?」と問われて「しょせん、ちっぽけ」と答えている(※8)。

 自分を小さく感じることで、現在の成功は自然に周囲のおかげととらえられるようになる。“我を張らず”に周りに感謝する木村は、ジャニーズタレントに共通する「事務所が自分をスターにしてくれた」という感覚を実は誰よりも強く持った男なのではないだろうか。

 それゆえに、逆風も予想される中で、事務所に残る決断をした。かつて糸井重里が若き日の木村拓哉に「自分の強みは?」と聞いたところ、こう返ってきたという。「自分の強みはジャニーズです」と(※9)。

(※1)「Myojo」2015年5月号
(※2)「Views」1995年8月号
(※3)「開放区」
(※4)「ダ・ヴィンチ」2017年4月号
(※5)「Invitation」2006年12月号
(※6)「an・an」2019年10月16日号
(※7)「週刊SPA!」2014年7月22日/7月29日合併号
(※8)「TAKUYA KIMURA×MEN’s NON-NO ENDLESS」
(※9)「MEKURU」VOL.7

▽霜田明寛(しもだ・あきひろ)1985年、東京都生まれ。早稲田大学卒。WEBマガジン「チェリー」編集長。ジャニーズJrオーディションを受けたこともある「ジャニヲタ男子」。著書に「ジャニーズは努力が9割」(新潮社)などがある。