新型コロナ拡大で公演減少も、やめられない舞台行脚

引用元:日刊スポーツ

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

仕事柄、これまでは毎日のように舞台を見てきたが、最近のように公演中止が続くと、見に行く舞台が少なくなった。かろうじて上演している舞台も、肝心の観客の数は少ない。井上ひさしさんの代表作である、こまつ座公演「きらめく星座」は5日初日から5日遅れの10日に初日を迎えたが、客席は空席が目立って寂しかった。しかし、舞台自体はやっぱり面白かった。

舞台は戦前の浅草のレコード店。敵性音楽が大好きな主人と、踊り子あがりの若い妻、広告文案家の下宿人、軍隊から脱走して逃げ回る長男、傷痍(しょうい)軍人と結婚した長女、そして、脱走した息子を追い回す憲兵が登場する。戦争に突入する暗い世相の中で、明るく生きる一家の姿がなんともいとおしい。

平凡な一家を戦争の影が覆い、絶望した長女に、文案家が「人間の広告文案」として、宇宙に水彗星(すいせい)が生じ、その地球に生まれた生命体が人間に至った奇跡を語り、「人間は奇跡そのもの。だから生きなくてはいけません」と励ます場面がいい。美しく心に染みとおるセリフだ。

舞台は開戦前日の12月7日で終わるが、主人夫婦は長崎、文案家は満州へ渡る。その後の長崎、満州の悲劇を知るだけに、幕切れに「狭いながらも、楽しいわが家」と明るく歌う「青空」が痛切だ。最後、彼らは防毒マスクを着けた姿で幕となる。井上さんは「防毒マスクは髑髏」と言ったが、舞台上の彼らは実は死者だったのもかもしれない。見る舞台は少なくなっても、こんなステキな舞台に出会えるから、舞台行脚はやめられない。