届けるカラフル音色! ジャズ・ピアニスト上原ひろみ、11年ぶり“凱旋” 5・23「東京JAZZプラス」出演

引用元:夕刊フジ
届けるカラフル音色! ジャズ・ピアニスト上原ひろみ、11年ぶり“凱旋” 5・23「東京JAZZプラス」出演

 世界を股にかけるジャズ・ピアニスト。大きな瞳をくりくりさせながら語る表情は、実にカラフルで豊かだ。

 5月23日、国内最大級のジャズフェスティバル、東京JAZZプラス(5月22~24日開催)にソロとしては2009年以来、11年ぶりに参戦する。

 「自分の生まれ育った国を代表するフェスに戻ってこられることがうれしいですね。海外での仕事が多いので、日本のフェスを体験すると、そのきめ細やかな環境づくりに感動しますよ」

 海外のフェスでは驚くようなことがよくある。

 「海外って結構大ざっぱなんですよ。インドネシアではステージにひよこ売りが入ってきたり、イタリアでは野外ステージに階段がついていないこともありましたよ、ウフフ。ジャングルジムのように登りましたよ」

 イタリア人の友人にそのことを話したら、何と「階段がなかっただけでしょ。ステージがなかったこともあるよ」とまさかの反応が。「ステージがない経験はさすがにないので、私もまだまだだなと」

 今回は、昨年リリースしたばかりのアルバム『Spectrum』をひっさげてのステージだが、このアルバム自体、10年ぶりにソロピアノアルバムとなる。本人と同様、カラフルな楽曲が並ぶ仕上がりだ。

 「もともと10年に1枚はソロピアノを出したいという思いはあったんです。ソロピアノは、ピアニストとして今の自分が一番よくみえる。そんな今の自分の記憶を残したいという思いですよね」

 ソロアルバムはすべてが自由にできる半面、すべてを1人で絞り出さないといけないというプレッシャーも存在する。

 「自分の中でインスピレーションに詰まったとき、パスを出してくれる仲間がいないってことですね。自力で絞り出すしかないので、その分達成感もありますが、頭はひたすら疲れますね」

 ただ、それが楽しいのだと。

 「毎日が大きなかけというか、出たとこ勝負。即興演奏って、宝探しのような感じなんです。ある意味、修行みたいな感じでもあるんですが」

 『Spectrum』というタイトルにも思いが込められている。

 「ソロピアノの作品を作ろうと思ったとき、ピアニストとして成長していく中で、自分の持っている“音色(おんしょく)”がパレット上で増えていくのを実感したんです。だから、今回は色をテーマにしたいと思ったんです」

 聴いていると、暖色系が多いように思ったんですが…。

 ◆料理と似ている

 「音楽ってとても面白くて、聴く人の取り巻く環境も影響するんですよね。暖色系に感じたのなら、今は幸せなのかもしれませんね、フフフ。でも、音楽って料理とよく似ていて、その日の体調次第で甘く感じたり、しょっぱく感じたり。提供する側も、シェフが自分の料理を突き詰めるのとすごくよく似ています」

 6歳のころ、母親の勧めでピアノ教室に通うようになったのがピアノとの出合い。そして8歳でジャズに出合う。

 「ピアノの先生がレコードをかけてくれて。オスカー・ピーターソンとエロール・ガーナーのアルバムで、とにかく楽しいって思ったんです」

 そんな中、大きな転機が訪れる。17歳のとき、都内のスタジオで、チック・コリアの前で演奏する機会を得たのだ。

 「正直、無我夢中で、よく覚えてないんです。ただ私がチョロチョロッと弾いたものに、チックは何通りも返してくれる。1冊の本しか読んだことのない私にとって、チックは巨大な図書館のような存在でした」

 もう一度、一緒に演奏できるなら、もう少しいろんな言葉を話したいとの思いが実現したのは、2006年の東京JAZZだった。

 「だから東京JAZZへの思いは強いんですよ」

 これからの上原ひろみはどこへ向かっていくのか。

 「私の長期プランの大きな野望はピアノを弾き続けること。それには近道はないというか、スーパーマリオ的にいうと地道に1面ずつクリアしていくしかない。裏技はないの。そう思っていたら、10年前のインタビューでも同じことを言ってて。なんか申し訳ないなと思うぐらい変わっていない。ハングリーさもステージに立つ喜びも変わっていない。ただ、キャリアを積むとハードルは上がっていくんです。でも、大変なほうが面白いじゃないですか」

 輝きを失わない秘密は、そこにあるようだ。(ペン・福田哲士/カメラ・佐藤徳昭)

 ■上原ひろみ(うえはら・ひろみ) ジャズ・ピアニスト。1979年3月26日生まれ、40歳。静岡県出身。バークリー音楽大学在学中、ジャズの名門テラークと契約し、2003年に世界デビュー。08年にはチック・コリアとのアルバム『デュエット』を発表。11年、スタンリー・クラークとのプロジェクト作が第53回グラミー賞で「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞する。

 夏の風物詩となった東京JAZZだが、今年は「東京JAZZプラス」として5月22~24日にNHKホール(東京都渋谷区)をメイン会場として開催予定。上原のほか、ピアニストの小曽根真らが出演する。