ジョン・チェスター監督が『ビッグ・リトル・ファーム』で描いた理想の暮らし

引用元:TOKYO HEADLINE WEB
ジョン・チェスター監督が『ビッグ・リトル・ファーム』で描いた理想の暮らし

「今は冬なのでそこまで忙しくはないんだけど、ここは南カリフォルニアなので、ウチの農場でも年中何かしら育っていてね。今はアボカドやニンジン、レタスやかんきつ類なんかを収穫していて、あと少ししたら果物の植え付けが始まるのでその準備とか、やることはいくらでもあるよ(笑)」と、スカイプインタビューを受けてくれたジョン・チェスター。

就農したい人に伝えたい「自然の見方を身に着けることが大事、ということ」

 殺処分寸前のところを保護した愛犬のため、夫婦で大都会ロサンゼルスのアパート暮らしから郊外へと移り住むことを決意し、以前からあこがれていた再生的農業に挑戦。東京ドーム約17個分もの荒れ果てた農地を“奇跡の農場”を作り上げた。その奮闘の8年を自ら映像化したドキュメンタリー映画『ビッグ・リトル・ファーム』が、いま世界各国で大きな注目を集めている。

「僕はもともとドキュメンタリー制作者で、当時は世界中をめぐりながら分刻みで仕事をしているか、家でぼーっと次の仕事が来るか心配しているかのどちらかだった。今はオフの日がまったく無くなったけど何倍も充実しているよ(笑)。朝は5時半に起きて、午前中は各チームを回り必要事項の確認、昼は彼らとランチをし、午後は作業やトラブルシューティング。夜は10時前に就寝といった日々を送ってるよ」

 彼のように田舎暮らしや農業にあこがれる都会人は少なくないが、そこには多くの難関があるのも事実。本作では、知人を中心にクラウドファンディングで資金を集めるところから、荒れた土を数年がかりで再生、豊かな農地へと変えていく軌跡が、その陰にあった困難とともに、ありのままに描かれている。

「今ではウチの農場を見学するために世界中から人がやってくるし、講演にも呼ばれるのだけど、農業にはいろいろなやり方があって、僕らのやり方が絶対的な処方箋になるわけではないんだ。僕が新しく農業に参入したいという人に伝えているのは、自然の見方を身に着けることが大事、ということ。観察力、好奇心、謙虚さ、創造性をもって自然を見つめること。自分の計画が、生物多様性や土壌の再生にどんな影響を与えるかを考えれば、自ずとどんな方法を使えばいいか答えが出てくると思う。農地が豊かになったことで野生の鳥や動物たちもやってくるようになって、今度は彼らに悩まされるようになった。でも観察することで、答えを見つけることができたんだ。まさか自分の農場でボブキャットまで見ることになるとは思わなかったけどね(笑)」

 規格に沿った作物を大量に収穫する大規模農業がどこの国でも一般的。

「日本は農業の補助金が年間で650憶ドルあって、一人当たりの補助金額が世界でもダントツに多いことを知ってる? アメリカにも言えることだけど、じゃあその補助金のうちどれだけが僕らのような再生的な農業にあてられているか。大規模農業の流通量をコントロールするために補助金が使われ、作物が無駄になってしまうこともあるなんておかしいよね。でも今のアメリカ政府は、より企業的な農業にばかり補助金を出して、商品的な作物を作らせている。しかも僕らのやり方で農業をしているとメジャーな流通には乗せられず、消費者に直接売らなければならない。でもそれによって正当な利益を得ることもできるんだ」

 実は、農場の商品で最初に評判になったのはニワトリの卵だった。

「ウチの卵を5年間、栄養分析したところ、ビタミンAやルチン、オメガ類の比率が年々増えているんだ。与えるエサはずっと同じなのなぜかというと、平飼いをしているので彼らの食べ物の半分は、彼らが過ごしている牧草地の草や虫なんだ。でも僕らはより栄養価の高い草やミミズを育てようと思ったことなんてない。土を健康にしようとしただけなんだ。土が良くなったおかげで、虫が健康になり、その虫を食べる鶏が健康になり、おいしい卵を産んでくれる。卵は本当に人気の商品で、棚に置くと奪い合いになるから並んでもらって一人に一つずつ販売しているくらい(笑)。他にもアボカドは脂肪分が豊富で、すごくリッチな味わいだし、リンゴはミネラルが豊富でリンゴ本来の味わいが強い。僕らが育てているものはどれも味が良くて、食べるとはっきり違いが分かる。それもすべて土壌が良いからなんだ。再生型農業は土壌をいやし、より栄養価が高い作物が育てることができる、未来を考えた農業だ。そのやり方が分かった今こそ、土壌を疲弊させてしまう従来の農業を変えるチャンスだと思うよ」

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』は公開中。

(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)