俳優・市原隼人 役者の存在意義と向き合う「根源が見つめられた瞬間、壁が小さくなった」

引用元:TOKYO FM+
俳優・市原隼人 役者の存在意義と向き合う「根源が見つめられた瞬間、壁が小さくなった」

大久保佳代子がパーソナリティをつとめ、ゲストと一緒にリスナーのお悩みに寄り添い、癒しの時間をお届けするTOKYO FMの番組「KOSE Healing Blue」。3月1日(日)の放送は、俳優の市原隼人さんが登場。リスナーの恋愛相談に応えました。<リスナーからの相談>
私は学校の課題やテスト勉強をしなければならないときでも寝てしまったり、ダラダラしてしまったりすることが多々あります。意識の問題であることはわかっているのですが、
すぐにとりかかれるコツのようなものはありますか? 何かあれば些細なことでも教えていただきたいです(ラジオネーム:ゆんゆんさん)
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大久保:嫌なことをするときって、ちょっとダラダラしてしまって、急にはとりかかれないっていうのは当たり前ですけど。どうですか?

市原:僕もスイッチが入らないときがあるのですが、そういうときは「目の前にあるものが、何のために生まれて、どのように自分の糧になるのか?」と考えるようにしています。その理由をしっかり見極めてからやるということが大事なのではないか、と。登る山が決まらなければ迷子になってしまいますし。頂上をちゃんと決めていないと、そのプロセスである歩き方もペース配分も分からなくなってしまうので、まずはそこですよね。「何のために勉強をするのか」。僕ももっと勉強しておけば、と……。

大久保:今になるとそう思いますよね。

市原:そうなんですよ。社会に出たときも、選択肢がより増えますし。10代のとき、中学までは義務教育ですよね。ゆんゆんさんは今、自然と選択肢を与えられる側から、自分で選択肢の幅を広げていかなければいけない時期にさしかかったのだと思うんです。やらされていた立場から、自分から何かをしに行く立場にならなければならないと思うので、そこは自分で努力しなければならないところだと思うんですけど。

大久保:確かに。結局、義務教育が終わったら自分がやりたいことを見つけて、そっちに乗っかっていかなきゃいけないから、そのときのほうが本来だったらやる気だったり、それこそ脳内は楽しんでやらなきゃダメですよね。だからゆんゆんさん、多分今は自分で選択して決めて勉強しているはずだから……。

市原:勉強は必ず自分の糧になる。でもやりたくなかったら、究極やらなければいいだけの話なので。そうしたらあとで損するのは自分なんですよ。本当にそう思います。僕は損しているのです。「もっと勉強しておけばよかった」と。

昔、武士とか侍がいた時代には(武士がつかえる)主君がいて、皆、生まれながらにやることが決まっていて。そして大義(国家、君主に対してつくすべき道)というものがあって。死に向かって生きていたのです。死に向かうことによって、人生をかけて新たな自分の存在意義を見い出せる時代だったのが、今は「死を迎える時代」じゃないですか。だから1つひとつの意味とか、生まれながらに自分で全部選択して選んでいかなきゃいけないんです。今の日本で、選択肢もいっぱいあるなか、自分で選ばなきゃいけないということは、すごく苦しいことなんですよね。

大久保:与えられた使命をわかって生きる時代のほうが生きやすかったんですね。

市原:そうです。だからこういう悩みは当たり前なんですよ。誰もが持っていることなので。

大久保:市原さんは33歳でしたっけ?

市原:そうです。

大久保:その境地になったのは、いつからですか? 若いときは、やりたくないな、とかやらされているな、みたいなこともありました?

市原:若いときは本当に仕事が嫌だったんですよ、休みがなくて。マネージャーが外に出たら、すぐにドアを閉めて現場に行きたくないって言って、車の中で引きこもっていたり。

大久保:(笑)。そんな時代があった人が、いつどうして、それこそ武士みたいな考え方になったのですか?

市原:根源というものに辿り着けたときがあったんですね。「役者ってなんで始まったんだろう? どのように社会に貢献しているのだろう?」ということで、それは観ていただけるお客様の存在なんですよね。自分が生活するためとかお金を稼ぐためにやっていると、喜びとか達成感はないのです。そこではなくて、職人にならなければ。

大久保:職人?

市原:自分の職業としっかり向き合わなければ、と思ったんです。お金を稼ぐとかじゃないから。だから結婚するまで給料明細も一切見なかったんですよ。役者というものが何のためにあるかと思ったら、お客様のために存在するのであって、お客様からいただいたお手紙に「学校に行くのが怖かったんですけど、あの作品を観て学校に行くようになりました」とか「家族とか友達と話すきっかけになりました」とか「あと何ヶ月という命なのですが、あの作品を観て本当に病室で笑顔になることができたんです」とか……。

いろんな方達から、本当に見えない力をたくさんいただきました。そのときに僕は涙が止まらないほど気づけたんですね。このために役者というものがあるんだと思うと、目の前の壁が小さく見えてきて。根源というものを見つめられた瞬間に、壁が小さくなって。どんどん向かっていく勇気が出たんです。

大久保:だから本当に見え方なり目線もちょっと変えてみて、何か根源にちょっとでも触れられたら、また変わってくるかもしれないですよね、考え方が。ちょっと市原先生が説得力ありすぎて……私、ダメな人間だって思えてきた。

市原:いや。そんな(笑)。

(TOKYO FMの番組「KOSE Healing Blue」3月1日(日)放送より)