石原裕次郎を完全に食った断トツの演技!「影狩り」 成田三樹夫の系譜

引用元:夕刊フジ
石原裕次郎を完全に食った断トツの演技!「影狩り」 成田三樹夫の系譜

 【怪優・成田三樹夫の系譜】「影狩り」(1972年、東映、石原プロ、舛田利雄監督)

 本作はさいとう・たかをが「週刊ポスト」に連載した劇画コミックが原作。

 成田三樹夫は主役となる影狩り三人衆のひとり月光(日下玄之助)役を演じている。元今津藩士だったが、藩内の騒動に巻き込まれ妻子が殺された際、顔に大やけどを負い、脱藩した伯耆流抜刀術の達人。ひきつった醜い顔に壮絶感が漂う。

 徳川の時代、疲弊した幕府は諸藩の取り潰しによって財政を立て直そうとして公儀隠密(影)を差し向ける。だがその隠密を始末するため各藩もひそかに忍者を抱えた。これがタイトル「影狩り」の由来だ。

 一概に忍者といってもいろいろいた。伊賀もの、甲賀もの、根来衆などはよく知られるが、他にも黒鍬組、二十五騎組、また将軍警護専門の黒縄組という忍者もいたといわれる。それぞれが得意とする分野があり、例えば甲賀は火付けや破壊工作を得意とし、黒鍬組は毒物の専門家集団だったという。

 さらに彼ら同士の裏切りや逃亡を阻止するための監視役「影目付根来」があり、大目付さえ知らない目付直属の「影」も存在した。

 当時のファンの評価は異口同音、ダントツに成田の演技がカッコよくて最高によかったといっている。日光は女癖が悪いキャラ。それに対して月光は正反対のニヒルなキャラ。これで女性客の心もつかんだ。それに比べて裕ちゃんは、浪人だからやむをえないが、ひげづらが汚すぎるダルマ顔。殺陣もイマイチだったとボロクソ。その上、この映画にそぐわないムーディーな主題歌に思わず引いたと観客から厳しい声が。成田は完全に裕ちゃんを食っていた。

 撮影にもシビアな声が。室戸十兵衛の剛健剣が石灯籠を真っ二つ。影の首領の首がすっとんで竹に刺さりブシューッと血が噴き出るシーンはさすがに引いたという声も。月光がセミヌードのくノ一を斬るところも「こんなに影を斬ってしまったら、いなくなっちゃう」と心配する声も出たそうだ。

 ストーリーは1964年の近衛十四郎主演『忍者狩り』に似ているという批判もあった。若山富三郎などは映画専門紙で「裕次郎は時代劇をなめているのか」と怒ったほど。それでも続編「影狩り ほえる大砲」が同年に作られたのは裕次郎人気のせいなのか。(望月苑巳)

 ■成田三樹夫(なりた・みきお) 1935年1月31日生まれ、山形県出身。俳優座養成所の同期には松山英太郎、山本圭、中村敦夫らがいる。90年4月9日、スキルス胃癌のため55歳で死去した。