新型コロナで舞台人は“瀕死状態” 人に元気届ける「文化」は大切…騒動が収束したら、どうか劇場へ

引用元:夕刊フジ

 【桂春蝶の蝶々発止。】

 新型コロナウイルス感染拡大抑制に伴う「自粛ムード」。舞台人は瀕死(ひんし)の状態ですね。私も13本の仕事がキャンセルになりました。大義名分は「人命を守るため」ですが、本音は「責任がとれない」「開催すると言うだけで炎上する」という忌避感かもしれません。

 個人的にどうかと思うのは、ウイルス騒動前から、明らかに大赤字の不良イベントが、コロナ発生でいち早く、「われわれは人命を第一に考え、断腸の思いで中止します」とか言っていること。「黙っててください」と言いたくなりますよね(笑)。

 政府からは「大規模イベントの自粛要請」がありました。大小関係なく、次々に自粛という空気に飲み込まれています。そんななか、東京マラソンは沿道に7万2000人を集めて開催されました。これの方がよほど「東京事変」だと思うんだけどな…(笑)…林檎は何にも言わないけれど。あ、古い?(笑)

 さて、私も多くの落語会がキャンセルとなるなか、「小規模ならば許されるか」と開催したものもあります。すると事務所に電話がかかってきて、「どうして、こんなご時世に開催するのか?」とクレームです。

 どれだけ説明しても切ってくれないので、マネジャーが「では、中止となれば、その損失をお支払いいただけますか?」と言ったとたん、「プー、プー」と、切りはりました(笑)。

 しらみ潰しで攻撃してくるクレーマー。彼らはいま正義を振りかざしやすい状況です。こうなったら何もできません。

 センバツ甲子園を無観客でやる方向で検討しているのに、「一斉休校しているのに不謹慎」というアホまでいます。

 全く…文化は衰退の一途をたどるのみです。

 私は、この問題の本質は、新型コロナウイルスが身体ではなく心に感染してしまっていることではと思います。病気も景気も「気」です。自粛という空気に支配されている、これも「気」です。

 気を張って、気を上げて、気持ちよく、早く元に戻ってほしいと願います。「元の気」と書いて「元気」と読みますから。人に元気を届ける文化はとても大切です。

 毎日落語会に来てた80代のおばあちゃんが家から出られなく、気が萎えて風邪をひいてしまったそうです。「何を希望にしたらええか分からんわ、今は」そう家族にこぼしておられたって。

 皆さん。

 人は何度息をするかよりも、「何度息をのみ込む瞬間に出会えるか?」では、ありませんか? この騒動が収束したら、息をのむ瞬間を味わいに、どうか劇場へ! お願いしますね!

 ■桂春蝶(かつら・しゅんちょう) 1975年、大阪府生まれ。父、二代目桂春蝶の死をきっかけに、落語家になることを決意。94年、三代目桂春団治に入門。2009年「三代目桂春蝶」襲名。明るく華のある芸風で人気。人情噺(ばなし)の古典から、新作までこなす。14年、大阪市の「咲くやこの花賞」受賞。