PRIMAL SCREAMの『Screamadelica』は90年代のUKロックを象徴する実験作

引用元:OKMusic

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はPRIMAL SCREAMのアルバム『Screamadelica』を取り上げたい。新しい要素を取り入れながらも、ルーツミュージックへの愛情が常に根底に流れている彼らの名盤であり、当時の音楽シーンに影響を与え、90年代ロックを象徴するアルバムだ。
※本稿は2015年に掲載

91年の来日公演の思い出

まず、なぜこのアルバムをピックアップしたかと言うと『Screamadelica』がリリースされた91年にPRIMAL SCREAMが来日し、その時にクラブチッタ川崎でライヴを観る機会に恵まれたからだ。さらに、なぜチケットを買って観に行ったかと言うと、PRIMAL SCREAMの「Ivy Ivy Ivy」という曲をPVで観て甘酸っぱいメロディーのロックンロールがカッコ良かったからという単純な理由だった。

が、『Screamadelica』をまだ聴いていなかったのと「気になるな、このバンド」という勘だけで観に行ったので実際、生でPRIMAL SCREAMを観て「ダンスミュージック? ハウス?」と驚いたのを覚えている。クラブミュージックのアプローチを取り入れながらも根底に流れているのは紛れもなくローリングストーンズに通じるR&R、R&Bであり、コーラスで参加していたのは完全にプリミティブなソウルディーヴァ。フロントで歌っているボビー・ギレスピーはミック・ジャガーやスティーヴン・タイラーのようなタイプとは一線を画すインドア系の草食男子だった。

今、思えば、雲の上的な存在であるロックンロールスターを憧れの目で見る時代から、客も同じく主役であるクラブカルチャーが融合する時代へと移り変わっていった時期だったと思うが、あの時はPRIMAL SCREAMが世界的にビッグなバンドになっていくとは正直、想像もしなかった。

アルバム『Screamadelica』

当時のイギリスの音楽シーンを象徴するムーブメント“セカンド・サマー・オブ・ラヴ”(マンチェスターやリヴァプールを中心とするアシッド・ハウス・ムーヴメント)に触発され、ロックとクラブミュージックの融合を試みたサイケデリックな本作は、UKチャートでトップ10に入るヒットを記録。日本での知名度も上がり、その後のPRIMAL SCREAMの人気を決定付けることになる。

オープニングを飾るナンバー「movin’ on up」はローリングストーンズを手がけたことで知られるジミー・ミラーによるプロデュース楽曲でPRIMAL SCREAMの根っこにあるロック、ブルースを感じさせるが、シタールを取り入れた2曲目「slip inside this house」(60年代のサイケバンドのカバー)から世界観がガラリと変わり、トリップ感、高揚感のあるドラッギーなナンバーたちになだれ込む。テクノ畑のDJ、アンディー・ウェザオールのプロデュース楽曲も大きな変化をもたらし、時代を反映した作品となった。代表曲はヒットシングル「higher than sun 」、「loaded」や 「come together 」。しかし、そんなアルバムの中にあって8曲目に収録されているスローなラヴソング「damaged」は素朴でフォーキーなサウンド、メロディーが際立っていて、ボビー・ギレスピーのルーツ音楽オタクっぷりが遺憾なく発揮されていたりもする。

ガレージロック、ダブ、ポストパンク、カントリーなど時期によって手法と表情を変えるPRIMAL SCREAMだが、彼ら自身が“スクリーマデリック・ミュージック”と呼んでいた本作はその歴史を振り返る上でも重要な一枚だ。ボビー・ギレスピーは「当時の重要なポイントは実験していくことだった。失敗するか、成功するか、いつだって分からないんだ。僕らは成功することに対して期待は持たない」(ライナーノーツより)と語っているが、のちに名盤と呼ばれるアルバムはそういうものなのかもしれない。つまり、最初からポピュラリティーは狙っていないということだ。

TEXT:山本弘子

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