「笑い」を生業とする企業は権力と一線を画すべき【エンタメ界激震 コロナショック】

「笑い」を生業とする企業は権力と一線を画すべき【エンタメ界激震 コロナショック】

【エンタメ界激震 コロナショック】#3

 あの吉本興業の直営劇場なんばグランド花月(NGK)が2日から休演したことは関西人にとって衝撃的な出来事だった。NGKは1995年の阪神・淡路大震災のときですら、震災のあった17日だけ休演し、翌18日からは通常通り営業していた。当時、大阪や京都は神戸、淡路島などに比べると、まだ比較的被害が少ない方だったこともあるが、関西人は「ドケチのケチモトらしいなぁ、商魂たくましい」などと言いながら“お笑いで関西を元気づける”というスタンスを貫いた吉本興業を誇らしく思っていた。安全面に配慮しなければいけないことは確かだが、今回の新型コロナ対策に関してはあっさり従ってしまったことに業界内外の人が驚いた。

「国から圧力あったんちゃうか?」と思うのは関西人だけではない。吉本が阪神・淡路大震災のときの対応は間違っていた、だから今回は小屋を閉めます、というのなら納得がいくが、そうでもない。2019年4月、安倍首相が吉本新喜劇に「経済に詳しい友人」という役どころで飛び入り出演し、G20への協力を呼びかけたことは象徴的。他にも闇営業問題で話題になったクールジャパン機構の100億円融資、地方自治体と関係性を深めたイベントの開催、沖縄国際映画祭は沖縄カジノ利権参入を狙っていると地元紙で報じられていたり、中国でのエンタメ人材育成の学校設立が安倍首相の訪中後に決まったり、安倍首相との蜜月を感じざるを得ない事柄が続々。権力との距離を近づけていることと無関係とは思えない。

「歴代首相で吉本の舞台に立ったのは初めて」と報じられたが、そんなものは至極当然。そもそも芸人は無頼で権力に近寄らないものだ。笑いを生業とする企業は権力と一線を画すべきである。

 これから自粛ムードの中、どうやって笑いを再提供していくかも送り手側の力量を問われる。2011年の東日本大震災の後、早々にある放送局がZARDの「負けないで」を流し、ひんしゅくを買った。被災したばかりで動揺している人にとっては傷口に塩を塗るような行為だった。同時に放送局の他人事なものの見方があからさまになった。

 阪神・淡路大震災後しばらくの間、僕は毎日放送でバラエティー番組からラジオの報道特別番組に組み込まれた。放送していたのは、救援物資など被災者に必要な情報だった。ひたすら被災者に寄り添い「もうそろそろ元気になる曲かけてくれへんか?」という声が聞こえるようになって初めて音楽を流した。受け手の心境をしっかり把握しなければ、善意も残酷なことになりかねない。エンタメの送り手は、こういう時こそ視聴者に寄り添うべきである。

(影山貴彦/日本笑い学会理事 構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)