トキワ荘の兄貴・寺田ヒロオの名作は? 千葉真一主演でドラマ化された柔道マンガ「暗闇五段」

引用元:夕刊フジ
トキワ荘の兄貴・寺田ヒロオの名作は? 千葉真一主演でドラマ化された柔道マンガ「暗闇五段」

 【マンガ探偵局がゆく】

 前回に続き、今春開館予定の東京・豊島区立トキワ荘マンガミュージアム関連の依頼を取り上げる。

 「トキワ荘マンガミュージアムを楽しみにしています。藤子不二雄(A)先生の『まんが道』などでトキワ荘のことは多少知っているつもりですけど、トキワ荘の兄貴としてみんなに頼られている寺田ヒロオさんのことがイマイチ分かりません。面倒見はいいけどそれほど売れなかったのでしょうか? 残念ながら僕自身は作品を読んだことがないのです。もし、探偵局でおすすめのマンガなどあれば教えてください」(40歳・会社員)

 寺田ヒロオに関してはちくま文庫から出版された梶井純による評伝「トキワ荘の時代」に詳しい。

 寺田ヒロオは新潟県新発田市生まれ。高校時代から野球部に属し、当時の電電公社に就職。野球部のピッチャーとして都市対抗野球に出場したこともある。マンガは高校時代から雑誌への投稿をはじめ、このコーナーでも紹介した井上一雄の「バット君」に刺激を受けて22歳で上京。手塚治虫についで豊島区椎名町(現東長崎)のトキワ荘の住人になった。その後、続々と上京してきた10代のマンガ家たちにとって頼りになる兄貴になったのは『まんが道』などにもあるとおり。

 明るいスポーツマンガで人気を集め、月刊誌の時代にはいくつもの雑誌に連載を抱える人気マンガ家になった。

 しかし、1960年代の劇画ブームでマンガに刺激的な内容のものが増えるとその風潮に反発。64年には週刊誌連載から撤退した。68年に「週刊少年サンデー」に「のんき先生まんがノート」を短期連載するなどしたが、73年には完全に筆を折ってしまった。91年没。享年61だった。

 探偵局がおすすめしたいのは63年から64年に「週刊少年サンデー」に連載された柔道マンガ「暗闇五段」だ。卑怯なライバル・熊手五段たちの奸計によって崖から転落し、記憶と視力を失った天才柔道家・倉見四段が、彼を救ったマツゲちゃんや、行方を追う親友の黒ひげ無段、恩師の娘・オニ姫の助力で再起する熱血物語。

 65年秋にはNET(現・テレビ朝日)が千葉真一主演で「くらやみ五段」のタイトルのドラマ化。マツゲちゃん役で子役時代の小林幸子も登場している。

 誠実さと人と人のつながりを大切にした寺田ヒロオらしさが伝わる名作だ。

 ※トキワ荘マンガミュージアムの開館は4月以降に延期された。

 ■中野晴行(なかの・はるゆき) 1954年生まれ。フリーライター。京都精華大学マンガ学部客員教授。和歌山大卒業後、銀行勤務を経て編集プロダクションを設立。1993年に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)で単行本デビュー。『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(同)で日本漫画家協会特別賞を受賞。著書多数。