吉岡里帆が『Fukushima 50』で感服した「嘘があってはいけない」という若松組のリアル

引用元:Movie Walker
吉岡里帆が『Fukushima 50』で感服した「嘘があってはいけない」という若松組のリアル

昨年出演した『見えない目撃者』、『パラレルワールド・ラブストーリー』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した吉岡里帆の映画出演最新作は、東日本大震災時の福島第一原発事故を描く『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)(公開中)。以前、取材で「アンパイをねらうよりも、挑戦者たちと一緒に突き進みたい」と言っていた吉岡は、その言葉どおり、佐藤浩市らキャストやスタッフ陣と共に、このプロジェクトに熱い想いを持って参戦した。

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原作は、門田隆将のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」。2011年3月11日にマグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震で起きた大津波が、福島第一原子力発電所(通称:イチエフ)を襲った時、作業員たちは命懸けの制御作業に挑んでいた。本作ではこの未曾有の事故を、作業員たちの目線からだけではなく、東電本店や官邸、マスコミ、自衛隊、米軍、被災住民と、様々な角度から描いていく。

主人公は、佐藤演じる福島第一原発1・2号機当直長の伊崎利夫で、吉岡はその娘、遥香役を演じた。父親役の佐藤について、吉岡は「とても安心感があり、すごく心強さを感じました」と全幅の信頼を寄せていることを明かした。だからこそ、佐藤から「本作に出演する時、悩まなかった?」と聞かれた際は「正直、最初はすごく怖いと思いました」と思わず本音を漏らしたそうだ。

「私がどこまでの役割を担えるのだろうかと考えてしまって…。でも、改めて浩市さんにそう言われた時、私自身で自分の責任を負って、覚悟を持って本作に臨むべきだと思いました。これからも難しい作品にたくさん遭遇すると思いますが、やっぱりそういうふうに立ち向かっていくべきだし、例え一人でも誰かのプラスになる可能性があることに対しては、怖がらずに挑みたいと思いました」。

出演が決まってからは「すごく緊張しましたが、まっとうしなきゃいけないなと心が引き締まる想いでした」と襟を正した。仕事をしていくうえで、人と人とのつながりを大事にしているという吉岡だが、本作においても、NHKの番組「平成万葉集」で出会った福島県富岡町出身の方との出会いが大きく背中を押したと言う。

「その方からお聞きした震災のお話がすごく生々しく、真実味を帯びていたんです。その方とのご縁も感じながら、お話をしてくださった時のことを思い返し、私が本作で家族の絆を描く部分を担えたらいいなと思いました」。

■ 「佐藤浩市さんの疲労感は、一目瞭然でした」

吉岡が現場に入ったのは、伊崎たちが待機していた1・2号機中央制御室の撮影シーンが終盤を迎えたころで、佐藤たちのやつれた表情を見て驚いたそうだ。

「浩市さんの疲労感は、一目瞭然でした。私は以前、別の仕事で浩市さんとお会いしていましたが、その時はデニムをカッコ良く着こなされていて、すごく若々しいイメージでした。でも、今回の現場で浩市さんが苦しみ葛藤しておられる表情を見て心配になり、『お身体、大丈夫ですか?』と、聞いてしまったくらいです。撮影での疲弊だけではなく、本作を背負われている佐藤さんの重責を感じ、私自身も苦しくなりました」。

メガホンをとったのは『沈まぬ太陽』(09)の若松節朗監督で、吉岡によると「とにかく嘘があってはいけない」と、セットや小道具など、隅々までリアルに再現していたそうだ。

「私は避難所のセットで撮影をしましたが、実際の写真と比べてもほぼ一緒で、画面に映らない部分まで念入りに作り込まれていました。例えば、家族を探しているというメッセージボードは、書かれたコメントまでは映像に映ってなかったけど、『こういう特徴の人を探しています』といった感じで、すごく細かく書かれていました。エキストラさんの履物1つ取っても、ものが足りていない状況が伝わるものでした」。

若松監督からは「家族のシーンは少ないけど、実際に避難されている方々の不安感や怖さをキャラクターにのせてほしい」とリクエストされたという吉岡。

「最初に避難した瞬間の遥香は、いまいち状況が飲み込めていない感じですが、飛び交うニュースに触れていくなかで、いよいよ自分の身に起きたことの重大さや、父親が危険な目に遭っていることの恐怖感が、少しずつ高まっていく。監督からは、その気持ちに変化をつけていくように言われました。避難所内も、父親がいる中央制御室の気迫あるシーンとはまた違う不安感があって、まるで時間が止まっているような空気感を感じました」。

■ 「本作に出演させていただき、復興に対しての意識はすごく高まりました」

命懸けで作業をする父親を、ただ待つことしかできなかった娘の心情はいかほどのものだったか。吉岡は若松監督から、家族に撮ってもらった子ども時代の写真を持ってくるように言われたそうで、その写真は実際に小道具の1つとして使われた。

「写真は、家族が一緒にいたという確固たる証拠のようなものです。避難所で自分の荷物をガザガサとまとめるシーンで、自分の父親が撮ってくれた写真が出てきた時、万が一、父親の命が危険にさらされることがあったらすごく怖いと、リアルに感じました」。

本作で、遥香役を演じきった吉岡は「私は東北出身ではないので、実際に知ることができない作業員の方たちやそのご家族の葛藤を、どれくらい伝えられているのか、自分としてもわからないです。また、こういう事象を描いた映画なので、いろんな意見が出ることとは思いますが、私は本作に出演させていただいたことで、震災からの復興というテーマが他人事とは思えなくなりました」。

安田成美演じる総務班の浅野が、命を顧みず危険な現場に残ろうとする若者たちに「あなたたちには第2、第3の復興があるの」と言う台詞も「すごく刺さりました」という吉岡。「復興については、まだなにも終わっていないし、我々の世代が、それを担う努力をしていかないといけない。まずは、震災のことを忘れないでいることが大事で、そのためになにができるのか、どういうことを伝えられるのかと、考えなきゃいけないことがたくさんあると思いました」。

さらに「私も本作に携わったことで、東日本大震災時の福島第一原発事故についてようやく知ったことがたくさんありましたが、第2、第3の復興は、まず知る努力をすることがすごく大事だと思います。そういう意味でも、『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)は、若い人たちはもちろん、幅広い世代の方に観てほしいです」と、澄んだ瞳で訴えかけた。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)