「ひよっこ」の怪演再び!77歳白石加代子が迫真の『おばば役』演出の長塚圭史も絶賛

引用元:中日スポーツ

 戦後を代表する劇作家秋元松代(2001年没)の最高傑作と言われる「常陸坊海尊」のプレビュー公演が7日、横浜市の神奈川芸術劇場で始まった。

 17年ぶりの上演。1997年に蜷川幸雄演出版で、海尊の妻と名乗るおばばを演じた白石加代子(77)が、新たなアプローチで難役に挑んだ。わびしい山村の社で海尊のミイラを守るという一種不気味で神がかった役を、圧倒的な存在感で体現。磨きのかかったセリフ術で、古めかしい方言を難なく繰り出す様は、語り芸の極致といえるほどだ。

 2017年にNHKの連続テレビ小説「ひよっこ」に出演、ユニークなキャラクターで人気を集めたが、舞台で鍛え上げた力量がいかんなく発揮された。少年の母親の魂が降りてくるシーンは、本物のイタコが目の前に現れたかのような迫真の場面になった。

 おばばに付き従う雪乃役の中村ゆり(37)は、可憐な少女時代から、後半の魔性への振り幅が際立つ。

 疎開先で神隠しに遭う少年啓太は、後半、平埜生成(26)演じる大人になって、物語の中心に座る。雪乃に魂を抜かれ、抜け殻となった男のあわれは、現世の弱者、取り残された者の象徴とも映る。

 「時代物ではなく、私たちの社会に痛烈に響く現代劇」ととらえた演出の長塚圭史が起用した田中知之(FPM)の現代音楽やシンプルな美術(堀尾幸男)が印象的だ。白石については「十分な経験を持ち、ものすごく情報量のある肉体、大空間を背負える肉体を持つ、非常にスケールの大きな女優」と絶賛した。

 魂の浄化を思わせる終幕。長塚は、「人間は誰しもみな深いところで罪の意識を持つ罪深い存在。彼(啓太)に救われる人はたくさんいるだろうと思いをはせる」と話した。

 ほかに尾上寛之、大森博史、平原慎太郎、真那古敬二ら。8日のプレビューを経て11日から本公演、22日まで。