緒形直人「壮絶な闘いを後世に伝えたい」…Fukushima50連載〈3〉

引用元:スポーツ報知
緒形直人「壮絶な闘いを後世に伝えたい」…Fukushima50連載〈3〉

 緒形直人(52)が演じたのは、緊急時対策室(緊対)で大津波により失われた電力復旧に尽力する発電班長・野尻庄一。主演の佐藤浩市(59)に関係者を通じて誘われ、出演を決めたという。「壮絶な闘いがあったと僕自身も知らず、なんとか後世に伝えて、残したい。その熱い思いにひかれてやらせていただきました」

 野尻は、渡辺謙(60)演じる吉田昌郎所長の下で、所長と現場や政府との橋渡しを担った。いつ炉心溶融が起こるか分からない発電所。当時の現場さながらの緊迫感や職員の疲れが見える中、吉田所長が陣頭指揮する姿は共演者にも波及した。「謙さんのリーダーシップやパワーが撮影を何日も続けても落ちず、すごさを身をもって感じ、吉田所長に重なった。謙さんの力強さを見て、演出ではなく自分でこの人を意識し、映ってないところでも芝居しようと思いました」と胸を借りた。

 2011年3月11日は、TBS系ドラマ「南極大陸」の撮影で北海道・根室の氷上にいた。「かなり揺れて、津波も3メートル弱きた。撮影中止もささやかれましたが、このドラマを見て希望や勇気を持ってほしいと、祈りながら演じてました」。家族と再会できたのはその10日後。「悪夢のような瞬間を目の当たりにして、これはどうしたものかと。でも、自分にも守るべき家族がいるので、無事だと確認できて安心しました」

 今回の映画の撮影では、当時現場で起こっていた過酷な事実を改めて知り、日本で暮らしている幸せを実感した。「福島で闘った方がいなければどうなっていたか。頭が下がる思い。尊敬の念と感謝の気持ちしかないです」。東日本大震災の被災地はまだ復興中で、現在進行形で続いている。「あの事故を風化させないためにも、東北のことを考え続けるためにも、他の地域の人に、こういうことがあったと知ってほしい。日本全体が考えるきっかけになる」。今日も変わらぬ日常を送ることができる尊さをかみしめた。(増田 寛)

 ◆緒形 直人(おがた・なおと)1967年9月22日、横浜市生まれ。52歳。88年に映画「優駿 ORACION」(杉田成道監督)に主演しデビュー。92年にNHK大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」に主演。父は俳優の故・緒形拳さん、妻は女優の仙道敦子、長男は俳優の緒形敦。 報知新聞社