「僕がいちばん素晴らしいと思うジャズ歌手」…村上春樹が50年以上聴き続けているレコードとは?

引用元:TOKYO FM+
「僕がいちばん素晴らしいと思うジャズ歌手」…村上春樹が50年以上聴き続けているレコードとは?

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」。2月23日(日・祝)の放送は、ジャズ・ヴォーカルに焦点を当て、苦手な人でも楽しく聴けるような村上流の入門企画「村上RADIO~ジャズが苦手な人のためのジャズ・ヴォーカル特集」をオンエア。本記事では、中盤5曲についてお話しされた概要を紹介します。

◆Carmen McRae「Take Five(with The Dave Brubeck Quartet)」

数あるジャズ楽曲のなかでも、「A列車で行こう」と並んで、いちばん世に名高い「Take Five」。カーメン・マックレエが、本家本元のデイヴ・ブルーベック・カルテットをバックに、歌詞をつけて歌います。すごく贅沢な組み合わせですね。マックレエのけっこうねちっこい歌唱と、ポール・デズモンドの飛び抜けてクールなアルト・サックスがうまく合うのかなと、聴く前はちょっと心配になるんだけど、さすが超一流のプロたちですね。ぴったりと文句なしに合ってます。

◆Billie Holiday「When You’re Smiling」

僕がいちばん素晴らしいと思うジャズ歌手は、常に変わることなくビリー・ホリデイです。今日は、彼女が1938年にテディ・ウィルソン楽団と共に吹き込んだ「When You’re Smiling」(君微笑めば)をかけます。SPレコードの時代なので、録音時間が約3分に制限されています。だから演奏がぎゅっと集約されるんです。余分なものがない。

僕はこのレコードを、かれこれ50年くらい聴き続けていますが、まったく聴き飽きません。何度聴いても、そのたびに新鮮です。ベニー・モートンのトロンボーン・ソロで始まり、本命のビリー・ホリデイの歌があって、これはもちろん素晴らしいんだけど、そのあとのテディ・ウィルソンのピアノ・ソロ、それに続くレスター・ヤングのテナー・ソロ、そしてバック・クレイトンのトランペットのフィナーレ。どれをとっても、まったく無駄のない、見事な「3分間芸術」です。

とりわけレスター・ヤングのソロは完璧で、聴いていてほれぼれします。レスターのアドリブは、ただコード進行に沿って自由に即興で演奏する、みたいな通常のレベルを遙かに超えて、とにかく自由自在に空中からオリジナルなメロディーを紡ぎ出していきます。天才にしかできない技です。彼のソロを注意して聴いてみてください。