村上春樹「ジャズが不得意な人、苦手な人に…」“村上流”ジャズ入門特別ラジオ番組をオンエア

引用元:TOKYO FM+
村上春樹「ジャズが不得意な人、苦手な人に…」“村上流”ジャズ入門特別ラジオ番組をオンエア

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」。2月23日(日・祝)の放送は、ジャズ・ヴォーカルに焦点を当て、苦手な人でも楽しく聴けるような村上流の入門企画「村上RADIO~ジャズが苦手な人のためのジャズ・ヴォーカル特集」をオンエア。本記事では、前半3曲についてお話しされた概要を紹介します。

<オープニング曲> ◆Donald Fagen with Jeff Young & the Youngesters「Madison Time」

こんばんは。村上春樹です。うかうかしているうちに年が変わっちゃって、僕もまた1つ歳を取りました。のんびり鍋焼きうどんを食べている暇もなく、時間がするすると過ぎ去っていきます。

今日は「ジャズが苦手な人のためのジャズ・ヴォーカル特集」です。この企画、前々からやりたいと思っていたんです。ジャズが不得意な人、苦手な人に、どれだけ楽しくジャズ・ヴォーカルを聴いてもらえるか――。正直なところ、あんまり自信はありません。だから偉そうなことは抜きにして、とにかく僕が個人的に好きな音楽をかけます。選曲の基本的コンセプトは「素敵な女性と、あるいは男性と親密なデートをして家に帰ってきて、ソファーに1人で横になり、ほかほかとあれこれを思い出しながら耳にしたいような音楽」です。うまくそういう音楽がかかるといいですね。

◆Lambert, Hendricks & Ross「The New ABC」

まずはジャズ・コーラスからいきます。僕の大好きなコーラス・グループ、ランバート、ヘンドリックス&ロスの歌う、「The New ABC」。誰もが知っているABCソングをジャズにアレンジしたものです。このグループは、ヴォーカリーズが得意な3人の歌手が集まってできたグループで、1957年から62年にかけて活躍しました。

「ヴォーカリーズ」というのは、ジャズの器楽曲にあとから歌詞をつけて歌うもの。テクニックの高さとセンスの良さにかけては、その手のグループで、このランバート、ヘンドリックス&ロスにかなうものはいません。黒人1人、白人1人、英国人の女性1人という、ちょっと不思議な組み合わせの3人組です。

しばらく前に、英国のある現代音楽家とジャズの話をしていたら、たまたま「あのアニー・ロスって歌手、ぼくの叔母なんだよ」と言われまして、「えー、すごいじゃない」と言ったら、相手は「何がそんなにすごいんだろう?」という怪訝な顔をしていました。親戚内部では、あまり評価されてなかったのかもしれないですね。でもこの人たち、ほんとにすごいです。