ポン・ジュノ監督会見詳報

引用元:産経新聞

 米映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞で、外国語作品として史上初めて作品賞を受賞するなど4冠に輝いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(50)と主演のソン・ガンホさん(53)の会見は時折、笑い声もあがる中、続いている。日本映画とのかかわり、今後の目標などを問う質問もあり、ポン監督からは著名な日本人映画監督の名前が次々と挙げられた。

 --韓国の映画界は国からのバックアップもある。ポン監督には日本の映画界がどのように映っているか

 ポン監督「個人的に親しくさせていただいている監督も日本にはいます。日本は長い映画の伝統を持ち、歴史的に優れた監督がいるというのが第一印象です。今村昌平監督をはじめ、黒澤清監督、阪本順治監督、是枝裕和監督の作品はどれもとても好きです。韓国の映画産業は国家的な支援プログラムがあるものの、支援を受けられる分野がインディペンデント系やドキュメンタリーなどに限られています。

 私やソンさんが参加しているような映画は、主に民間企業の出資、配給、制作するものになります。韓国映画産業はいま健康な状態で回っているということができるかもしれません。日本は主に漫画、アニメーション産業が国際的に評価されているためそちらに焦点が当てられがちですが、私個人としては、日本の映画監督、フィルムメーカーのもつ多様さ、世界にとても興奮を覚えます」

 --カンヌ国際映画祭とアカデミー賞の両方で最高賞を受賞しているが、2つの受賞に喜びの質の差はあったか

 ポン監督「ふたつの賞が、衝撃と歓喜が共存するものだったので比較することはできないのですが、カンヌ(国際映画祭)には9人の審査員がいて、その中にはイニャリット監督(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)ら私が好きな監督がたくさんいました。そうした監督たちが私たちの作品を好きになってくれたことの喜びが大きかったです。あえて満場一致と強調されたことも、あの監督たちが…とうれしかったです。

 アカデミーは8000人以上が投票しているので、一人ひとりのことは詳細にはわかりません。ソンさんをはじめ、みんなで5カ月以上のオスカーキャンペーンと呼ばれる長く、複雑な道のりを経験しました。その最中には、(この時間は)本来シナリオを書くべきではと複雑な気持ちになることもありましたが、キャンペーンは複合的に映画を分析する機会になりました。どこが優れているのか、どのように映画がつくられているのかなど、巨大なスケールの中で映画が検証されたという思いがありました」

 ソンさん「カンヌ国際映画祭もアカデミー賞も、同じようにうれしいことでした。カンヌでは受賞が初めてのこともあり、うれしすぎて、ポン監督の胸元を強くたたいてしまいました。強すぎて(肋骨に)ひびが入ったという話もあったので、アカデミーでは胸元を避けて喜びを表現するのが大変でした」

 --2人がタッグを組んだ「グエムル 漢江の怪物」ではウイルス感染がテーマとして描かれ、現在の東アジアでは(新型コロナウイルスによって)まさに似た状況が起きている。この状況をどうみるか

 ポン監督「映画の中ではウイルスはなかったという結論になります。最近の状況は浦沢直樹さんの『20世紀少年』などを思わせます。現実と創造物が相互に侵入し合うのは、自然な流れだと思います。医学的、生物学な恐怖より、人が作り出す心理的な恐怖のほうが大きいと感じます。そうした心理的恐怖に飲み込まれると、災害を克服することが難しくなります。今は映画とは違う状況で、実際にウイルスが存在しています。過度に反応したり、人種的な偏見を加えたりするともっと恐ろしいことが起きます。私たちはこの事態を乗り越えられると希望を持ちたいです」

 --映画を作るときに目標としているもの、心がけていることは

 ソンさん「映画をつくることは快感を伴い、価値を見いだすことができます。観客が『パラサイト』を見て価値を感じたからこそ、これほど好意的に受け止められたのだと思います。私は映画を作るにあたって、何か意味がないといけないとは思いません。私たちが表現したいと思っているものをいかに興味深く、面白く伝えていけるか、俳優として探求し、研究しています」

 ポン監督「自分で話すのは恥ずかしいですが、クラシックをつくりたい、私の作品がクラシックになってほしいと思ってつくっています。クラシックになるということは、時間や歳月を超えていくことになります。黒澤明やアルフレド・ヒチコックのような作品を作りたいという気持ちでいます。そのために、透明な状態で映画と向き合うことを大切にしています。興業的に成功したい、賞を取りたいという不純物が混ざらないようにストーリーと向き合います」

 --多くのメディアが、豪邸ではなく、半地下の生活に興味を持って取材してることをどう感じるか

 ポン監督「世界にはいろいろな住居形態が存在していますが、半地下というのは珍しいので興味を持たれたのだと思います。さかんにロケ地巡りが行われているようで、そこで生活している人々にはご迷惑をおかけして申し訳ない気持ちです。実際に人々が生活している場所ですので、不都合な状況にならないようにしていただくことが最優先になってほしいと思います」