ポン・ジュノ監督会見詳報

引用元:産経新聞
ポン・ジュノ監督会見詳報

 米映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞で、外国語作品として史上初めて作品賞を受賞するなど4冠に輝いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(50)と主演のソン・ガンホさん(53)の会見は、和やかな雰囲気の中、続いている。

 今回が4度目のタッグとなるポン監督とソンさん。約20年前、まだ無名だったソンさんは、ある映画のオーディションを受けるも落選してしまう。その際、無名俳優にもきちんと結果を知らせてくれたポン監督(当時は助監督)の気遣いに、ソンさんは感動。数年後には、売れっ子になったソンさんが、ポン監督からの映画出演依頼を快諾したというエピソードもある。質問は、互いの魅力を尋ねるものもあった。

 --ポン監督とソンさんがタッグを組んだ大ヒット映画は多い。お互いにどんな存在か

 ポン監督「大好きな俳優です。演技が本当に素晴らしい。私はシナリオを書いているときに、この役を演じるのは、この方(ソン・ガンホさん)と思い浮かべると、とても気持ちが楽になって自信も生まれてきます。まるで草の上を駆け回っている子馬のような、そんな自由な気持ちになるのです」

 ソンさん「私は、監督の淫靡(いんび)なところ、ねっとりしたところがいいと思います。すみません。私の場合は、現場で監督とたくさん話すことはしません。作品を通して、監督が何を表現しようとしているのか考えるのが好きなのです。俳優としてとても楽しく、興味深い作業でもあります。あえて監督に尋ねるのではなく、表現しようとしているものを、自分で見つけていこうとします。この20年間、いろいろな仕事を共にしてきましたが、(監督の作品に出演することは)まさに祝福であり、苦痛でもあります。苦痛というのは、ポン監督が芸術家として目指している高い野心を、十分に俳優として達成するための苦痛ということです」

 --映画「パラサイト 半地下の家族」を通して伝えようとしたことは何か

 ポン監督「韓国だけでなく、全世界のさまざまな国で二極化があると思います。私は二極化の事実を暴きたかったというよりも、未来に対する恐れの感情があります。私には息子が一人いますが、未来の世界は二極化を克服できるのか、たやすいことではないはずです。私は悲観主義者ではありませんが、今後どうすべきなのか恐れを感じます。これはクリエーターでなくても、いまこの時代に生きている人々すべてが感じているものだと思います。私たちが抱えている不安や恐れを、率直に表現してみたいという気持ちがありました。

 メッセージやテーマを伝えるうえで、私は真顔で伝えることが得意ではありません。普段から冗談を交えて伝えることが好きで、この映画の中でも声高に伝えるのではなく、映画的な美しさの中で、映画的活力の中で、シネマティックな方法の中で面白く伝えたいという思いがありました。俳優さんたちによる表現の豊かな感情とともに伝えたいと思ったのです」

 --不安や恐れの象徴として、映画の中では臭いがキーワードになっている

 ポン監督「映画はイメージとサウンドで伝えるものなので、臭いを表現することはとても難しいものですが、すぐれた俳優たちの表現によって、それがよく描けたと思います。臭いを嗅ぐしぐさ、自分から臭いがするのではないかと心配する表情などです。

 臭いというものが、この映画が伝えているストーリーに似合っていると思いました。貧富の格差に先立って、人間に対する礼儀について描いています。人間に対する礼儀が失われたときにどんなことが起きるのかを描いた映画でもあります。

 臭いは、普段の生活の中で感じたとしても、人間に対する礼儀に関わることなので、それを話すことはなかなか難しいものです。臭いは、その人の生きている環境や生活条件、労働条件を表すものです。映画の中では、意図せず臭いについての話を聞いてしまい、人間に対する礼儀が崩れ落ちる瞬間が描かれています。ある一線を越えてしまった状況が描かれています」

 --臭いを表現するうえで苦労した点はあるか

 ソンさん「『線を越えるな』という表現が映画の中で出てきます。その線や臭いは目に見えるものではありません。臭いという漠然としたものを表現するうえで方法があるわけではないので、私はドラマの中に入って、心理的に表現することを心掛けました」