元文科官僚寺脇氏&前川氏 映画「子どもたちをよろしく」で描く現代社会の闇

元文科官僚寺脇氏&前川氏 映画「子どもたちをよろしく」で描く現代社会の闇

 ギャンブル依存症の父と極貧生活を送る孤独な少年、男に依存する母、DVの継父、デリヘル嬢の姉と暮らす少年……地方都市の2つの家庭を交差させながらイジメ、貧困、性暴力、自殺など子どもたちを取り巻く現代社会の闇を鋭く描いた映画「子どもたちをよろしく」(隅田靖監督)が29日から公開される。企画、プロデュースは前川喜平元文科省事務次官と文科省官僚出身の寺脇研氏。映画評論家としても長く活躍する寺脇氏に話を聞いた。

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 高校生の時に雑誌「キネマ旬報」に投稿して採用されたのが映画評論家になるきっかけでした。文部省(現文科省)に入省した後も役人の傍ら映画評論を続けてきて50年近くになります。

 私から見れば最近の日本映画は口当たりだけが良く、軽くチャラチャラ浮ついた映画が多くなったように思います。歯ごたえのある映画がなくなった。それは小泉元首相の新自由主義が喧伝された時代から顕著になったようです。

 1960~70年代の日本映画は時に救いようのない現実を描き、「暗い」「汚い」「(映画館のトイレが)臭い」の「3K」といわれました。 元文科官僚寺脇氏&前川氏 映画「子どもたちをよろしく」で描く現代社会の闇 (C)子どもたちをよろしく製作運動体  でも、それは日本の社会をそのまま反映したものであって、今のように不都合な現実を直視することをせず、見せかけの繁栄を謳歌するような映画とは違って、ずっしりと心に響いてきた。私が愛した日本映画はいったいどこへ行ったのか。

 そんな思いから7年前に、戦争に翻弄された一組の男女の姿を「性」を通して描いた「戦争と一人の女」という映画をプロデュースしました。そのあと、斜陽のピンク映画界を描いた「バット・オンリー・ラヴ」、そして今回の映画で3本目です。

 この作品は試写を見た人のほとんどが「救いがない」と言う。確かにハッピーエンドで終わる物語ではない。でも、大ヒットした「新聞記者」だって、きっちり現実と切り結びながら割り切れない痛みを伴うエンディングでしたよね。

 子どもたちのいじめや自殺がどうすればなくなるのかを映画を通して問い直したい。映画・落語評論家、そして文科省官僚として子どもたちの教育に携わってきた私の人生の集大成だと思っています。ぜひ映画館へ足をお運びください。

(取材・文=山田勝仁)