「新聞は体験型エンタメだ」 EXILE小林直己さんの新聞活用術 

引用元:産経新聞
「新聞は体験型エンタメだ」 EXILE小林直己さんの新聞活用術 

 人気グループ、EXILE(エグザイル)などのパフォーマーとして活躍する小林直己さん(35)は家族が新聞配達をしていた環境で育ち、自らも10代後半に同じアルバイトをしていました。幼いころから新聞に親しみ、「新聞は体験型エンターテインメント」と話します。

 ■配達のアルバイト

 母が新聞配達をしており、兄も姉も配っていたので、幼いころから何となく新聞の話を聞くようになっていました。はじめは4コマ漫画を読んでいたと思います。将棋が好きで、羽生善治さんが大スターになり始めたころは、羽生さんの対局を新聞で日々追っていました。今でも覚えているのは、ある日、羽生さんの対局の記事の中で前日の対局と翌日の対局で駒の位置が違っているのに気づいたことです。新聞社に電話したところ、「ご指摘ありがとうございました」と連絡がありました。確か、小学校低学年のころのことだと思いますが、母にその話をするとほめられ、それ以外の記事も読むようになりました。

 私自身も15歳から18歳まで地元の新聞販売店でアルバイトをしていました。「お金がほしい」というのが理由ですが、体を動かすのが好きだったので、建物の階段を駆け上がり、街が起きだす前の冷たく透き通った空気の中で、自分の将来などいろんなことを考えていました。配達先のマンション屋上から見た朝焼けの美しさは今でも忘れられません。

 高校の倫理で「愛とは何か」の授業がとてもおもしろく、もっと勉強したいと思い、法政大学文学部哲学科に進みました。ただ、今考えると、大人になるためのモラトリアム(猶予期間)がほしかったのだと思います。愛についても学校で学ぶものではなく、人生で一つ一つ傷つき、それを乗りこえるものだ、と。以前から「ダンサーとして食べていけたらいいな」と思っていたので、親に相談すると「親は先に死ぬから、自分で食べていく方法を見つけなさい」と言われ、3年時に大学を退学しました。「人生で思いっきりギャンブルをしよう」。そう覚悟を決め、この世界に入りました。

 ■地球規模の視点

 新聞は1面のコラムからページ順に読みますが、今は新聞社のニュースサイトや電子新聞を読むことが多いです。意識しているのは情報源が偏らないように読むことです。

 英語が読めるようになってからは、米国のウォールストリート・ジャーナル紙などの原文を読んでいます。地球規模の視点で報じる記事は勉強になりますね。最近だと、オーストラリアの森林火災、香港のデモ、中国の新型肺炎など。どれも確実に日本に影響するし、逆に日本の動きが影響しているのかもしれない。

 そういう視点を持つようになったのは、ネットフリックス(米動画配信)の作品に出るようになってからです。監督は英国出身、主演女優はスウェーデン出身、カメラマンは韓国出身、共通言語は英語。会社として事前に「こういう言い回しはハラスメント(嫌がらせ)になる」という時間を設け、現場で共有しました。グローバルな世界で個々につきあっていくには、メディアが提供する情報を受け身で待っているのではなく、積極的に自分で収集していかないと置いていかれる、という危機感を持つようになりました。

 多様性が求められる北米の映画製作シーンで、日本語を母国語とする自分がどう切り込んでいくか-を考える上でも、新聞が報じる記事の視点は参考になります。自分の中のアンテナに引っかかった記事にも意味があると信じています。

 ■何重にもチェック

 誰もチェックせずにアップロードされるネット上の情報と、新聞社の中で何重にもチェックされた上で作られる記事は全く異なると思います。個人的にはSNS(会員制情報サイト)は苦手ですね。もし裏のとれていない情報を流したら、誰かの人生を変えてしまう恐れがありますから。

 新聞の良いところは、簡潔に情報がまとまっていることです。最もわくわくする「体験型エンターテインメント」と言えるかもしれません。ニューヨークでは今、自分の選択によって自分の知る物語が変わってくる体験型のエンタメが人気です。新聞も今起きている話を扱っている。しかも自分の現実に影響している。能動的に記事を読めば、世界の風景も変わってみえてくるはずです。そんな読み方をすれば、若い世代の人も新聞を楽しく読めるのではないでしょうか。

 こばやし・なおき 昭和59年、千葉県生まれ。平成21年、EXILEにパフォーマーとして加入。22年結成の三代目J SOUL BROTHERSのリーダーをNAOTOとともに兼任。一方、俳優としても舞台やドラマ、映画で活躍。Netflixオリジナル映画「EARTHQUAKE BIRD」でハリウッドデビュー。米ウォールストリート・ジャーナル紙にも日本の礼儀作法など「型」に関するコラムが掲載された。新聞に書評を寄稿するなど読書好きとしても知られる。