「劇団民芸」創立70周年 新作「白い花」に次代担う中地美佐子、飯野遠が主演

引用元:産経新聞
「劇団民芸」創立70周年 新作「白い花」に次代担う中地美佐子、飯野遠が主演

 今年、創立70周年を迎えた劇団民芸。亡き滝沢修や宇野重吉、北林谷栄ら昭和の演劇史に名を刻んだ名優らが結成した新劇の老舗が、23日まで、新作「白い花」を紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA(東京都渋谷区)で上演している。東京五輪(昭和39年)の熱が地方にも残る40年代初頭、瀬戸内海地方で生きる対照的な姉妹の物語だ。(飯塚友子)

 山深い田舎で、老父と暮らす38歳独身の姉・百合(中地美佐子)と、かつて姉と将来を誓った男と駆け落ちのように夫婦になり、都会で生きてきた妹・彩(飯野遠)。家事や畑仕事に追われ、婚期を逃した百合のもと、彩が10年ぶりに帰郷したところから、物語は急展開する。

 「俳優はたった6人しか出ていませんが、(作者の)ナガイヒデミさんが愛情を込めて作ってくださった各キャラクターが濃くて、いかにも地方に『いるいる』、『あるある』出来事の連続です。昔ではなく、今の私たちのつながる物語で、ご共感頂けると思います」と百合役の中地。

 おせっかいな叔母や、地元の住職から見合い話を勧められ、困惑する百合のもと、奔放な妹まで登場。しかし因縁のある姉妹は、大げんかを始めるでもなく、四国の方言で互いを探り探り、距離を詰めていく。「私は姉ちゃんから、俊満さん(夫)を奪うたんじゃけん」などと、のどかな言葉で10年の空白や、秘めた思いが明らかになっていく会話がリアルだ。

 彩役の飯野は「彩は憎めないけれども、困った妹です。結婚して松山で苦しい生活もして、10年ぶりに実家に帰った解放感もあり、明るく演じたい。百合が白い花なら、彩は彩りですから、表情豊かに」と健康的な笑顔を見せる。

 静かな暮らしを、揺さぶられた百合。しかし最終的には、妹夫婦を受け入れる。役名の通り、静かに野に咲く白ユリのような、清潔さとしたたかさを備えた女性なのだ。

 「故郷に反発する彩はある意味、分かりやすい。でも百合はとらえどころがなく、最初は七転八倒しました。そして色々な葛藤を経た上で、生まれ育った一番好きな土地で、何でも受け入れられる度量の大きさがあると発見できた。『新しい暮らしより、こっちの方が何倍も幸せ』という百合のせりふは、本心から出ていて、誰の中にも百合と彩、両方がいると思います」(中地)

 稽古では、愛媛県今治市出身のナガイ自身が台本を朗読し、俳優に方言指導をした。故郷に根ざした戯曲が持ち味で、民芸への作品提供は平成29年、日色ともゑ主演で上演され、好評だった「送り火」以来、2作目だ。

 この作品で描かれる田舎の濃密な人間関係は、劇団にも通じると声をそろえる2人。飯野は「同世代だけの劇団と違って、演劇の辞書みたいな先輩たちがいっぱいいらっしゃって、共演できたり、お稽古を近くで見られて、アドバイスを下さる。それが歴史ある劇団の価値だと思います」と感謝の言葉が尽きない。

 川崎市の劇団稽古場には、本番で使うセットそのものが組み立てられ、丁寧に稽古が進められていた。素顔も清楚な空気をたたえる中地は、「みんながそれぞれの持ち場で、芝居を作っているのが誇り。『この家がいいんよ』っていう百合のせりふは、劇団にも通じます。面倒くさい所も含めて(笑)」と微笑む。

 70周年の皮切りとなる新作を担う2人。劇団の期待も背負って、「いいスタートが切れるよう、この芝居にかけたい」と姉妹のように息の合ったところを見せた。

 問い合わせは劇団民芸044・987・7711。