【業界人に聞く】『ジョーカー』がアカデミー作品賞を逃したワケ

引用元:IGN JAPAN
【業界人に聞く】『ジョーカー』がアカデミー作品賞を逃したワケ

『ダークナイト』が不当にも作品賞にノミネートされなかった2009年以来、コミックを原作とした映画はゆっくりと、でも確実に、アカデミー賞でより真剣に検討してもらえるようになってきた。昨年、『ブラックパンサー』がコミック原作映画で初めて作品賞を含む7部門でノミネートされた。『ブラックパンサー』は最終的に3部門を受賞したが、最高賞とされる作品賞は『グリーンブック』の手に渡った。そして『ジョーカー』も、第92回アカデミー賞で最多となる11部門でノミネートされたが、作品賞は受賞できなかった。では一体なぜ、『ジョーカー』は作品賞を勝ち取ることができなかったのだろうか?
「人気は高いですが、『ジョーカー』はダークで重苦しい作品だったため、おそらくそのトーンが一部の投票者たちを遠ざけたのでしょう」とFandango編集長のエリック・デイビス氏はIGNに話している。ベテランのエンターテインメントジャーナリストでThe Ankler編集長のリチャード・ラッシュフィールド氏も同様に、『ジョーカー』の容赦ない残酷さが、作品賞受賞のチャンスを失う要因になったのではないかと考えている。作品賞を受賞する作品の傾向についてラッシュフィールド氏は「観客をいい気分にさせる、いわゆるfeel-good映画ではないですが、嫌な気分にさせるfeel-bad映画でもないですね」と述べた。「『ジョーカー』は確実にfeel-bad映画です」
「スーパーヒーロー映画がノミネートされ、主演男優賞を受賞するということは、本当に驚くべきことです。しかし、作品賞を受賞するのは、非常に難しいことだと思います」とラッシュフィールド氏は語った。

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「業界が、マーベルやDCなどのコミックを原作とした映画の成功を称賛」している一方で、IndieWireのジャーナリストでアカデミー賞評論家のアン・トンプソン氏は、「アカデミー賞の投票者たちは、コミック原作映画の芸術性をそれほど正しく評価していません」と自身の見解を明かした。そして、『ジョーカー』が11部門でノミネートされたのは非常に画期的なことだが、コミック原作映画が技術的な部門でノミネート以上のものを獲得し、その映画自体を芸術作品として見てもらえるようになるには、「まだ長い時間がかかるだろう」とトンプソン氏は考えている(アカデミー受賞歴のある監督マーティン・スコセッシが、コミック原作映画は「本物の映画」ではなくテーマパークに近いものだという意見を述べ、論争を引き起こしたこともある)。
IGNが話を聞いた3人の業界専門家全員が、『ジョーカー』の強みを大いに見せつけた2部門の受賞について賛同した。「作曲とホアキン・フェニックスの演技は本当に卓越したものだったため、受賞に至ったのです」とデイビス氏は述べ、トンプソン氏とラッシュフィールド氏もそれに同意した。アカデミー賞ではフェニックスの主演男優賞受賞に加え、作曲家のヒドゥル・グドナドッティルが作曲賞を受賞。作品賞を含む11部門でノミネートされたが、2部門のみが受賞に至ったということだ。

ゾッとするような演技を評価されて主演男優賞が贈られたフェニックスだが、これは2人の俳優が、異なる作品に登場する同じキャラクターを演じて、アカデミー賞を受賞するという珍しいケースに分類される 。 過去には、マーロン・ブランドとロバート・デ・ニーロが、それぞれ『ゴッドファーザー』と『ゴッドファーザー PART II』でヴィトー・コルレオーネ役を演じてアカデミー賞を受賞している 。 そして、フェニックスと故ヒース・レジャーは、それぞれジョーカー役を演じてアカデミー賞を受賞した 。 では、ジョーカーの何がそれほどまでにアカデミー賞の投票者たちを惹きつけたのか?
『ダークナイト』に登場したレジャー演じるジョーカーは、秩序を乱して社会に大惨事をもたらすアナーキストで、9.11以降の世界において彼の脅威はリアルに感じられた 。 一方フェニックス演じるアーサー・フレックは、自分を拒絶した社会に対して激しい怒りを爆発させようとしている、精神的に不安定で孤独な人間の不安や、銃乱射事件が頻繁に起きる時代に広く抱かれている恐怖を表現していた 。 トンプソン氏は、ジョーカーが「私たちが恐れている何か、私たちを脅かす混乱」を象徴していて、この要素こそが、フェニックスとレジャーの演技を、観客や批評家だけでなくオスカーの投票者たちの心まで響かせる助けになったと考えている 。