『十二人の怒れる男』本当の民主主義を問う、“アメリカの良心”的作品

引用元:CINEMORE
『十二人の怒れる男』本当の民主主義を問う、“アメリカの良心”的作品

 ニューヨークのある裁判所の一室。そこでは、父親殺しの罪を問われた少年の裁判について、審議が行われている。あらゆる証拠・証言は少年が犯人であることを指し示し、全陪審員一致で「有罪」になることは明らかだった。しかし、陪審員8番だけが無罪を主張し、議論はにわかに熱を帯びていく…。

 シドニー・ルメットが監督、ヘンリー・フォンダが主演を務めた『十二人の怒れる男』(57)。AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が選ぶ「アメリカ映画ベスト100」の一本に選出され、「法廷ドラマ映画」ベストテンでは『アラバマ物語』(62)に次いで第2位にランクイン。アカデミー賞でも作品賞を含む3部門にノミネートされ、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した、名作中の名作だ。

 世界に与えた影響は大きく、2007年には設定を現代ロシアに置き換えたリメイク作品が映画化され、日本でも三谷幸喜が『12人の優しい日本人』(91)というオマージュ作品を発表している。

 だが、この作品を“法廷劇”と呼ぶのはためらいを感じてしまう。法廷そのものが描かれるのは最初の数分間だけで、舞台は薄暗く狭い陪審員室。本来は主役となるはずの弁護士や検事にスポットライトは当たらず、ストーリーを牽引するのは、人種も職業も年齢も異なる12人の市井の人間たち。脚本を手がけたレジナルド・ローズがある殺人事件の陪審員を務めた際に、8時間にも及ぶ白熱した議論をした経験から、この着想が生まれたという。

 同じく法廷劇の傑作とされる『情婦』(57)や『評決』(82)とは異なり、現場の検証や裁判テクニックの応酬はない。美女とのラブロマンスや、派手なカーアクションもない。オジサン連中が汗をダラダラかきながら90分間ディスカッションをするだけの、おっそろしく地味なお話。それでいて、公開から60年以上経った今でも抜群に面白い映画、それが『十二人の怒れる男』なのである。