女優の瀧内公美が、映画雑誌「キネマ旬報」が発表する映画賞「第93回キネマ旬報ベスト・テン」で主演女優賞を受賞。11日、文京シビックホールで行われた表彰式に出席し、女優としての転機となった作品で評価されたことに感無量の表情を見せた。
同賞において、初受賞となった瀧内。数々の名作映画を手がけてきた脚本家の荒井晴彦が、直木賞作家・白石一文の小説を原作にメガホンをとったR18+指定作品『火口のふたり』で主演女優賞を獲得した。瀧内は「今年で創刊101年になるこのキネマ旬報で主演女優賞をいただけるということが本当に光栄です。とてもうれしいです。ありがとうございます」と切り出すと、「この『火口のふたり』という作品は、わたしが今までお世話になった事務所を退所して、フリーになった時に森重(晃)プロデューサーに声をかけていただいて。そこから始まったんです」と出演の経緯を述懐。 本作は瀧内にとって転機の作品となったようで、「これからどういう風にしていこうかなと思っていた時に、こういう作品をいただけたので。もう一回やってみようと思って、この作品に携わりました。その時に(現在、瀧内が所属する芸能事務所の)吉住モーターズの吉住(太日志)社長にお会いして。『やるんだったら思い切りやるんだよ』と背中を押していただきました」と誇らしげな表情。「『火口のふたり』は、ほとんど2人だけしか出ない映画なので。相手役をしてくださった柄本佑さんがいたから、この場に立てるんだと思います。直接はお会いできてないですが、感謝の思いを伝えたいです。そしてスタッフの皆さんも最後の最後まで支えてくださって。ありがとうございました」と共演者やスタッフに感謝の思いを述べた。 壇上で荒井晴彦監督と この日、かつて『日本で一番悪い奴ら』(2016)で組んだ白石和彌監督が監督賞(『ひとよ』『凪待ち』『麻雀放浪記2020』)を受賞し、来場。表彰式で顔を合わせた喜びに触れつつ、主演女優賞をもたらした荒井監督に格別な思いを伝えた。「荒井監督にも、ものすごく感謝しています。一度お世話になったことのある白石和彌監督には『瀧内とこういう場で一緒になるなんて思っていなかったよ』と言われたんですが、わたしもそうなるとは思っていなくて。でもこういう場所に連れてきてくださったのは荒井さんなので。荒井さんとスタッフの皆さんに感謝しています」
一方の荒井監督にとっても、今回の日本映画ベスト・テン第1位選出は大きな出来事だった様子。「41年前に神代(辰巳)さんとやった『赫い髪の女』(1979)は4位でした。次の年に前田陽一さんとやった『神様のくれた赤ん坊』も4位でした。次の年に根岸(吉太郎)とやった『遠雷』(1981)は狙っていました。農村の青春をやれば、お年寄りの評論家が票を入れてくれるんじゃないかと思っていたんですが、上には上がいて。子供の話をモノクロで撮ったやつ(『泥の河』の小栗康平監督)がいたんで『遠雷』は2位でした。それから澤井信一郎とやった『Wの悲劇』(1984)は……」といった具合に、1位をとれなかった歴代作品について恨み節を延々と述べ、会場が笑いに包まれた。また「もう僕の作風では1位は無理じゃないかと思っていました。それが自分が撮った映画でまさかの1位という。70を過ぎた脚本家が、低予算で撮ったR18の裸の映画が……1位でいいんでしょうか?」と自虐的に問いかける一幕もあり、大いに沸いた。(取材・文:壬生智裕)
瀧内公美、初のキネ旬受賞 事務所社長が後押し「やるんだったら思い切り」
引用元:シネマトゥデイ