大人の味わい感じた2020年のオスカー・ナイト――甦ったハリウッドのレジェンド達が燻し銀の魅力を披露

引用元:IGN JAPAN
大人の味わい感じた2020年のオスカー・ナイト――甦ったハリウッドのレジェンド達が燻し銀の魅力を披露

思えば去年のオスカー・ナイトは派手だった。ブラック・アメリカンとメキシコ勢がカラフルにステージを彩り、スパイク・リー監督のはっちゃけたオスカー・スピーチも楽しかった。一転、2020年のアカデミー賞授賞式はというとこれがエラく落ち着いていた。エスニカンでお祭り的な雰囲気はほとんどゼロ。そりゃあ韓国の鬼才、ポン・ジュノが世界に放った『パラサイト 半地下の家族』の存在は強烈であったがこちらは後でゆっくりと語るとして、今年はホワイト・エスタブリッシュメントな空気が漂っていたことは否めない。

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というのも、11部門に最多ノミネートされた『ジョーカー』をはじめ、授賞に少しでも絡んでくる作品はほとんど白人の物語だったからだ。主演・助演賞部門も、『ハリエット』のシンシア・エリヴォ以外は全員白人であった。しかも中高年のベテラン勢が多い。助演男優賞候補の平均年齢は何と71歳であった。最高齢はアンソニー・ホプキンズ(『ふたりのローマ教皇』)の82歳。結局この部門で授賞したのは一番若手のブラッド・ピット(56)。作品は『ワンス・アポン・ア・タイム ・イン ・ハリウッド』だ。クエンティン・タランティーノによるこの意欲作は1969年に、連続殺人鬼チャールズ・マンソン・ファミリーにより殺害された女優、シャロン・テートの実話が下敷きになっている。近年のタランティーノ作品の中でピカイチとの呼び声が高い。ピットの役どころは主演のレオナルド・ディカプリオ演ずるアクション・スターのスタントマン兼親友のクリフ。年齢をいっさい感じさせないキレキレのボディとアクションが楽しめる。

主演女優賞はレネー・ゼルウィガー(50)。「ブリジット・ジョーンズ」シリーズのおかげでコメディ女優の印象が強いが今回は往年の銀幕のスター、ジュディ・ガーランドの半生を綴った『ジュディ 虹の彼方に』での演技が評価された。ジュディ・ガーランドといえば『オズの魔法使い』でドロシーを演じて以来、1940年代から50年代のハリウッドに君臨し続けた女優だったが47歳で死去。ついに一度もオスカーを手にすることはなかった。その雪辱を果たしたのがゼルウィガー。最近はあまり良い作品に出会えなかったゼルウィガーだがここで一挙にカムバックを果たし、その演技はガーランドが憑依したかのようだと噂された。

主演男優賞は『ジョーカー』の引き込まれるような怪演が記憶に新しいホアキン・フェニックス(45)。授賞スピーチの中で彼は今の世界の現状に深い憂慮を示し、最後に自身の兄である(故)リバー・フェニックスの遺した言葉で締めくくった。「何かを救うために走り出したら、愛と平和が後からついて来る」。そう言えばブラッド・ピットのスピーチも政治色が濃く、トランプ大統領の弾劾裁判をストレートに批判していた。最近のアカデミー賞の授賞スピーチは意識高い系のものが多い。

助演女優賞は『マリッジ・ストーリー』で離婚弁護士を演じたローラ・ダーン(53)が持ち帰った。ダーンは両親ともハリウッドスターという、サラブレッド女優だ。30年以上, ハリウッドで活躍し続けているがオスカーを手にしたのは初めて。2月10日の誕生日を控え、「最高のバースデー・プレゼント」と満面の笑みを見せた。
このラインナップを見てもわかるように、授賞者はフェニックスを除いて全員50代だ。ハリウッド映画界は年々高齢化がすすんでいるという囁きは事実に基いているようだ。ここで作品賞をはじめ多数の部門にノミネートされながらひとつも勝てなかった『アイリッシュマン』について触れておきたい。Netflixがマーティン・スコセッシ(77)という大物ブランド監督を迎え、巨額を投じて創り上げたこの映画は往年のレジェンド俳優のロバート・デニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシの3人を初めて1つの現場に集めることに成功した。興味深いことにこの全員が70歳以上だ。なのに衰えを感じさせない重厚な演出と骨太い演技が視聴者を唸らせる。この分だと後20年はこのメンバーで充分にクオリティの高い作品が成り立つかもしれない。恐るべし、レジェンド。ハリウッドにも人生100年時代がやってきたのだ。

一方で今回のオスカー・ナイトはどうしても若々しさや元気な派手さという要素が削られた印象が残る 。 スター達の見所である衣裳も地味めだった 。