俳優・宍戸錠さん ダンディーだけど豪放磊落…ニヒルな彼らしい消え方

引用元:夕刊フジ
俳優・宍戸錠さん ダンディーだけど豪放磊落…ニヒルな彼らしい消え方

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】

 「ウォーレン・ベイティが1万2775人だよ。次にチャーリー・シーンが5000人。3位が宍戸錠で1331人、えらい違うんだよ。この野郎、年は俺が一番上だぜ?」

【写真】4代目「くいしん坊」を務めた宍戸錠さん

 これは、宍戸錠さんが79歳のときに、吉田豪さんのインタビューで発言した内容。女性を抱いた数では自分が世界3番目の俳優であると豪語していました。

 しかし、そこまで女性にご執心していた理由を、「ヤレば1回は俺の映画を見てくれると思っていたから身を削って宣伝した(笑)」と、別のインタビューでは語っていました。ダンディーだけど豪放磊落(らいらく)。冗談も大好きだったチャーミングな日活の大スター。女性達が放っておくわけがありません。

 このインタビューから8年。宍戸錠さんが、1月18日に御自宅で亡くなっていたことがわかりました。享年86。2010年に元女優の奥様が他界した後は、子供達とは同居をせず、一人暮らしだったようですが、程よい距離で付き合っていたそうです。

 あれだけ女性にモテモテだった人気スターでも、孤独死することがあるのだとショックを受けた人もいるかもしれません。しかし、ニヒルな宍戸さんらしい消え方、とも言えるのではないでしょうか。

 死因は、虚血性心疾患との発表です。先週のこの連載では、高木守道さん(元中日ドラゴンズ監督)の突然死を取り上げ、冬場は心臓疾患死が多くなることを指摘しましたが、宍戸さんも直前までお元気だったようです。

 虚血性心疾患とは、心臓を取り巻くように流れている冠動脈が狭くなり、血流が悪くなることで心臓になんらかの障害が起きた状態をいいます。突然死の多くがこの疾患によるものです。狭心症や急性心筋梗塞(こうそく)のことだと思ってください。

 その原因は血管の老化、つまり動脈硬化にあります。リスクファクターとして(1)肥満(2)糖代謝異常(糖尿病)(3)脂質異常症(高脂血症)(4)高血圧-があり、4つともそろえば死の四重奏とも呼びます。これらのリスクを下げるには毎日のこまめな歩行が一番簡単で、確実です。

 しかし宍戸さんは、男性の平均寿命(81歳)より5年長生きし、悠々自適な一人暮らしの中での突然死。見事な大往生と言っていいでしょう。

 日活時代、ライバルの石原裕次郎さんには敵わないと悟ったとき、整形手術で頬にシリコンを入れて心機一転、「悪役顔」になったのは有名な話。その覚悟には、脱帽です。それでも宍戸さんはモテ続けました。

 二枚目の条件とは、顔でなく生き様なのだと教えてくれた名俳優でした。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。