会話劇のみで連ドラ成立させるか? テレ東“スキマねらい”制作から見る良質ドラマの本質

引用元:オリコン
会話劇のみで連ドラ成立させるか? テレ東“スキマねらい”制作から見る良質ドラマの本質

 テレビ東京が深夜に放送する古舘寛治、滝藤賢一W主演のドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』。『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』(共にTBS系)などの脚本家・野木亜紀子氏によるオリジナル脚本、演出は『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京)などの山下敦弘監督。気鋭の職人による本作は、2人の会話劇をメインに、地味だか味わい深い世界観を醸成している。連続ドラマには視聴者に、1クールを通して観続けてもらうためのセオリーが存在するが、同作の世界観はそれとは無縁。このテレ東らしいスキマねらいの低コスト制作は、「良質なドラマ」の本質を浮き彫りにしている。

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■流行やトレンドとは無縁の“職人気質”な会話劇ドラマ

『コタキ兄弟』は、真面目すぎてうまく生きられない兄・古滝一路(古舘)と、そんな兄を見て育ったせいか、ちゃらんぽらんにしか生きられなくなった弟・古滝二路(滝藤)の物語。無職の残念な兄弟がひょんなことから「レンタルおやじ」を始め、孤独な依頼人たちと関わり、さまざまなむちゃぶりに四苦八苦しながら、それでも生きて、前へ進んでいく人間賛歌コメディだ。

 野木氏の脚本は、実力派脇役俳優ふたりの独特な間を活かした会話劇をメインに据えて、随所でクスリと笑わせながら、最後に心温まる展開を迎える。さまざまな人々の人間ドラマを通して、味わい深い世界観を醸成しており、それを、山下監督の色あせた感じの映像が憂いを帯びさせ、人間の生々しさに手触りできるような作りになっている。

 同作について「非常に職人気質」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「昨今はYouTubeなどの短時間映像の視聴に慣れた視聴者を離さないため、『問題提起は早め』『放送開始直後に事件を起こす』といった手法の作品が多くなってきました。ですが同作は、主人公らのユルい会話からのんびり始まり、ストーリーものんびりと展開していき、物語の核心は後半にようやく明らかになる。わかりやすい事件らしい事件は起きず、そういった意味でも、非常に“日常系”なのです。また、舞台ではおなじみの“会話劇”は、芝居における伝統的な手法ながら、毎週視聴者を引きつけなければならない連続ドラマで、飽きさせずに毎話のメインに据えるのは難しい。そこに真正面から向き合っており、“1クールを通した会話劇ドラマを作ろう”という気概に溢れ、職人的な気質を感じる。通好みのドラマと言っていいでしょう」(同氏)