ディスるネタの「納言」は酒浸りの薄と影の薄い安部が絶妙のバランス

ディスるネタの「納言」は酒浸りの薄と影の薄い安部が絶妙のバランス

【2020 新春「笑」芸人解体新書】#8

 昨年、「翔んで埼玉」というコメディー映画が空前の大ヒットを記録した。バカバカしい設定で埼玉の田舎ぶりを皮肉った異色の「地方差別コメディー」は、なぜか地元の埼玉県を中心に熱狂的に支持され、興行収入は37億円を突破。日本アカデミー賞でも最多12部門で優秀賞を獲得して話題となった。

 同じ時期にお笑い界でも似たような芸風の芸人が出てきた。街をディスる(悪く言う)ネタで人気上昇中のお笑いコンビ・納言である。

 納言の薄幸(27=写真右)は、黒のライダースジャケットに身を包み、たばこを吸いまくり、酒を飲みまくるやさぐれキャラ。そんな彼女は漫才の中でたばこを吸う動作をしながら、首都圏の街を偏見交じりで強烈にイジり倒す。

「鴬谷はションベンくせえ街だな」「神田の女はすぐ金券ショップに入るな」「小岩の女は膝小僧が汚えな」など、一切遠慮なしの容赦ないイジりが笑いを誘う。

 字面だけ見れば相当きついことを言っているはずなのに嫌な感じにならないのは、薄のキャラクターによるものだろう。やさぐれている彼女が「下から目線」で捨てゼリフのように偏見を言うからこそ、笑って許してもらえるのだ。

 納言は昨年ブレークを果たし多くのバラエティー番組に出演するようになった。その中では薄の酒飲みキャラに注目が集まっていた。彼女は一日も欠かさず酒を飲んでいる本物の酒浸り芸人だ。

「アメトーーク!」で自宅にカメラを置いてその飲みっぷりを検証したときには、発泡酒24本を飲み続け、そこにビールを加えて、いったん寝た後でまた目を覚まし、迎え酒をしてからようやく眠りについた。お笑い界有数の酒豪として知られる千鳥の大悟もあきれるほどの本物の大酒飲みだった。

 薄は通っていた農業高校で3回の停学を食らい、退学処分になっているという過去もあり、そのやさぐれキャラは筋金入りだ。

 薄ばかりに注目が集まる中で、相方の安部紀克(27=写真左)はどんどん影が薄くなっている。最初は一緒にネタを作っていたのだが、最近では薄だけにネタ作りを任せるようになり、ますます存在感がなくなってきている。

 とはいえ、この感じがキャラの濃い薄と好対照を成しており、コンビとしてのバランスはいい。今年も活躍が期待できそうだ。

(ラリー遠田)