ソウル変革を成し遂げたマーヴィン・ゲイの不朽の名作『What’s Going on』

引用元:OKMusic
ソウル変革を成し遂げたマーヴィン・ゲイの不朽の名作『What's Going on』

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。リスナーを煽ったり、超絶テクニックを見せつけるタイプのミュージシャンであれば、そのすごさや革新性を理解するのは比較的容易いと思う。しかし、あまり目立たなかったり、超絶なのに技術をひけらかさないタイプは受け手がすぐに評価できるかというと、なかなか難しい…。アメリカのソウル界においては、ジェームス・ブラウンやスライ・ストーンは確実に前者であり、今回取り上げるマーヴィン・ゲイは後者になるのかもしれない。僕が最初に本作を聴いた時、自他ともに認めるハードロック少年だった。だから、極めて普通っぽいマーヴィンの音楽が物足りなく感じたものだった(しばらく後で間違いに気付くのだが…)。それから数年後、いろいろな音楽と出合い、自分でも楽器を演奏するようになってから、このアルバムをもう一度聴いてみると、そのすごさに震えたのである。それからは数え切れないぐらい聴くようになり、いつの間にか自分のオールタイムベストの一枚となっていた。それが今回紹介するマーヴィン・ゲイの『What’s Going on』というアルバムだ。
※本稿は2015年に掲載

ヒット曲を量産したモータウン・レコード

マーヴィンが所属していたのは、モータウン・レコードというソウル専門のレーベル。このレーベル、乱暴な言い方をしてしまうと、ジャニーズ事務所とか、つんく♂のハロプロ、はたまた秋元康のAKB46ら、アイドルを抱えた芸能事務所的な存在であった。抱えていたスターは、ダイアナ・ロスが在籍したスプリームス(かつてはシュープリームスと呼ばれた)、子供時代のマイケル・ジャクソンが在籍した兄弟グループのジャクソン5や、テンプテーションズ、スティーヴィー・ワンダー、スモーキー・ロビンソン、マーヴィン・ゲイ、ライオネル・リッチーなど、黒人ばかりのアーティストたちにもかかわらず、全米に向けてポピュラーヒットを量産するレコード会社で、60年代中頃には大手レコード会社と肩を並べるほどに成長している。

会社のオーナーはベリー・ゴーディ・ジュニアで、曲作りを任せるライターチームや演奏を任せるミュージシャンを、会社の専属として雇うなど、ヒットを短期間に量産できる体制を作り上げた彼の功績は大きい。おそらくジャニーズ事務所のジャニー喜多川は、ゴーディの経営手法をかなり取り入れていると思われる。

もともとマーヴィンはフランク・シナトラやナット・キング・コールのようなポピュラー歌手を目指しており、最初のうちはあまり売れなかったが、60年代中頃に組んだタミー・テレルとのデュエットコンビで、一気にスターになっている。その頃の音楽性は、分かりやすい例で言えば、さくらと一郎の「昭和枯れすすき」とか、日野美歌と葵司朗の「男と女のラブゲーム」あたりの感じだと思う…ほんまかいなwww。

ところが人気絶頂だった1970年、タミー・テレルが脳腫瘍のために亡くなってしまう。マーヴィンは彼女の死のショックから立ち直れず、何もできなくなり、1年以上も休養することになってしまった。

多忙を極めていた彼が、この休養によってさまざまな音楽と触れ合いながら、当時の公民権運動やベトナム戦争など社会の動向まで見据えることによって、その後の音楽人生は大きく変化することになる。

ちょうどこの頃、スティーヴィー・ワンダー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイら、黒人としてのメッセージを掲げて、次々に新しいソウル(ニューソウル)が生まれようとしていた。特に、ダニー・ハサウェイのデビュー作『Everything Is Everything』(’70)は、それまでの黒人音楽には存在しなかったシンガーソングライター的なスタンスで、70年代ソウルの進むべき道を示した作品として、マーヴィンにも大きな影響を与えたはずだ。