「ダイナミックプライシング」 チケット転売防止へ、需給に応じ価格変動

引用元:産経新聞

 ■Jリーグに続き浜崎あゆみさんライブに導入

 音楽コンサートのチケットが高額転売されるのを抑制するため、新たな試みが始まっている。エイベックス・エンタテインメントは、年末に予定されている歌手、浜崎あゆみさん(41)のライブチケットを時価で発売。国内の単独アーティストとしては初の取り組みだ。需要に応じた価格で販売し、定価と実勢価格との差額を利益とする転売を防ぐのが目的だが、本格的な導入には、価格状況などを適切に開示する透明性も求められそうだ。(森本昌彦)

 「投資で生じた借金を返済するために始めた」。11月下旬、プロ野球オールスター戦のチケットなどを高値で転売したとして、入場券不正転売禁止法違反容疑で警視庁に逮捕された東京都職員の男は、調べに対し、こんな趣旨の供述をした。

 6月に同法が施行されてから初の逮捕とされる事件で、男は平成24年から、計約4700万円を売り上げたという。

 国民生活センターの発表では、インターネットでのチケット転売に関する相談件数は29年度の852件から、30年度には2045件に急増。25~30年度の相談5187件のうち、コンサートが3767件で最多だった。

 音楽業界では転売禁止の呼びかけと同時に、法整備に向けた働きかけを実施。コンサート会場では、購入者本人かどうかを確認するため、運転免許証やパスポートなど公的証明書の提示を求めたり、顔認証を導入したりした例もある。

 エイベックス・エンタテインメントが行っている時価販売は、AI(人工知能)を活用し、需給に応じて価格をリアルタイムに変動させる「ダイナミックプライシング」という手法を採用。席の種類によって標準価格が設定されているが、実際の価格はその後上下していく。

 従来の定価販売では、人気イベントの場合、定価を上回る値段でもチケットを購入したいという人がいる可能性があり、その差額が不正転売の利益となる。もともと需要に合った価格で売り出せば差額は少なくなり、転売するメリットが薄くなる。価格面から不正転売を抑止する試みだ。

 国内では、サッカーJリーグなどスポーツ分野で、ダイナミックプライシングが採用されている。音楽業界では、複数のアーティストが出演した11月のイベントに続き、浜崎さんの年末ライブが2例目となる。転売防止に効果があるか、検証する場となるようだ。

 跡見学園女子大の曽田修司教授(アーツ・マネジメント)は、「コスト面を考えると、本人確認の徹底はどこでも、誰でもできるわけではない。入場者に不自由も生じる」と指摘。今回の販売方法について「一種のオークションのようなもので、主催者と購入者がお互いに納得する範囲で価格が決定されるため違法マーケットもできにくくなる。不正転売を抑止する効果が期待できると思う」と評価する。今後、音楽界に広がっていく可能性もあるという。

 ただ、転売目的などない純粋なファンにとっては、これまでよりチケットが値上がりする可能性も指摘されている。曽田教授は、「購入者に安心感を与えるため、購入者が希望する価格と予想される販売価格が大きく乖離(かいり)していないことについて、情報開示をきちんとすることが重要だ」と話している。

【用語解説】入場券不正転売禁止法

 音楽やスポーツなどのチケットの不正転売を禁じている。規制の対象は、有償譲渡禁止を明記▽開催日時と入場資格者または座席を指定▽販売時に購入者の氏名や連絡先を確認して明記-の要件を満たした「特定興行入場券」で、スマートフォンなどを使った電子チケットも含まれる。正規販売価格より高い値段での常習的転売を禁じている。違反者は1年以下の懲役か100万円以下の罰金、または両方が科される。