NHKの空気を一変させた「麒麟がくる」の好発進…制作トップが1年ぶりに見せた心からの笑顔

引用元:スポーツ報知
NHKの空気を一変させた「麒麟がくる」の好発進…制作トップが1年ぶりに見せた心からの笑顔

 この人の心からの笑顔を見るのは、いつ以来だろう―。そんなことを思いながら、NHKの制作・編成の最高責任者の言葉を聞いていた。

 22日、東京・渋谷のNHKで開かれた木田幸紀放送総局長の定例会見。19日に放送された新大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」(日曜・後8時)初回の平均視聴率が19・1%を記録。前作「いだてん~東京オリムピック噺」の初回15・5%を3・6ポイント上回るロケットスタート、近年では16年「真田丸」の19・9%に次ぐ高い数字となったことについて聞かれた木田氏は「大変いいスタートが切れたなと思っています」と笑顔を見せた。

 「ただ、今までも振り返ってみると、1回目が一番良かったということが何回もありますので、これで気を抜かずに2回目、3回目と内容の充実したものを期待したいなと思っています」と気を引き締めたが、喜びは隠せない。「放送開始が2週間遅れたにも関わらず、こんなにたくさんの方に見ていただいた。制作者、出演者、みんなホッとしているし、ありがたいなと思っているのではないかと思います」と正直に続けた。

 この「みんなホッとしている」という言葉こそNHK全体の声であり、本音中の本音だろう。

 1977年の入局後、90年の大河「翔ぶが如く」演出、97年の「毛利元就」制作統括など一貫して制作畑を歩んできた“NHK放送全体の顔”と言っていい木田氏の月に一度の会見をこの4年間、ずっと取材し続けてきた。しかし、ここ数年は心からの笑顔を見たことがなかったと、つくづく思う。

 特に、初回から最終回までの期間平均視聴率8・2%と大河ワーストを記録、昨年2月10日放送の第6回から同12月15日の最終回まで42回連続1ケタを続けた前作「いだてん」について毎回、聞かれ続けた昨年1年間はきつかっただろう。

 「いだてん」が史上最短で1ケタを記録してしまった時も「物語の山場に合わせてプロモーション番組なども増やしたい」とエールを送り、「視聴率が全てということではない」という視聴者の受信料で制作しているNHKのトップとしては、やや波紋を呼ぶ発言までして擁護し続けた。

 先月の会見では「いだてん」終了にあたり、「まず、お詫びなのですが、この1年間、いろいろなことがあって、ご心配をおかけたことを申し訳なかったなと思っています」と頭を下げる一幕まであった。

 足袋職人・黒坂幸作役で出演のピエール瀧(52)がコカイン使用による麻薬取締法違反で逮捕され、降板。終盤に東京五輪で女子バレーボール日本代表を率いた大松博文監督役で出演した「チュートリアル」徳井義実(44)も個人で設立した会社が東京国税局の税務調査を受け、18年までの7年間で約1億2000万円の申告漏れを指摘されるなど、キャストにスキャンダルが続出したことまで謝罪した。

 そんな苦難の1年が終わり、仕切り直しとなったとたんの「麒麟がくる」の好発進。大河ドラマ59作目。第29作「太平記」を手掛けた池端俊策氏(74)のオリジナル脚本、長谷川博己(42)演じる明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生にスポットをあてる物語。1540年代、まだ多くの英傑たちが「英傑以前」だった時代から始まり、それぞれの誕生を丁寧に描く作品が、まずは熱い支持を集めた形となった。

 私の目には、これまでよりずっと笑顔多めに映った木田氏は好スタートの理由を聞かれ、「久しぶりの戦国時代。光秀始め知っている人がたくさん出てくる時代と言うことで、とっつきやすさはあるのですが、オーソドックスな作りに見えて新しい戦国時代の大河ドラマになっているのではないか。衣装とか見た目の感じとか、登場人物の描き方、どういう視点で描くか。例えば、襲われた村人が縄でつながれて売られていくシーンなど。ああいうことは戦国時代の研究で前から明らかになっていたけど、今までの大河ドラマでははっきりと描かれていなかったのではないか。どうしても大名や殿様が中心になる中、無名時代の光秀には歴史的に謎が多い中、脚本の池端さん、主演の長谷川君が想像力たっぷりの伸び伸びした世界を作ってくれているというのが新しい大きな魅力になっているのではないか」と分析した。

 一方で今回もアクシデントはあった。帰蝶役で出演予定だった沢尻エリカ被告(33)が昨年11月16日に麻薬取締法違反罪で逮捕。代役に川口春奈(24)が起用された。序盤の撮り直しを余儀なくされ、当初の1月5日から初回放送日が2週間延期となってしまった。

 しかし、初回の終盤に登場した川口について聞かれた木田氏は「最後の方にちょっと出てきただけで、まだあれこれ言う段階ではないのかも知れませんが、お姫様らしさ、存在感は十二分にあった。かわいかったし、これからに期待したいと思います」と、それこそ笑顔満開で話した。

 最後に「視聴率のデータの分析ですが…」と話し出すと、「裏でやっている番組もそんなに大きな変化はなかった。まだ、この先どうなるかは分からないんですが、『麒麟がくる』は比較的若い世代、40~50代まで含めた現役世代に多く見られたのではないか。HPなどアクセス数も過去2作品よりはるかに多い。単純に『戦国、久しぶりだね』ということだけではない魅力を受け止めてもらえたのではないか。全力で制作にあたってくれている制作陣、出演者だけでなく、僕自身も手応えを感じています」と前を向いて話した。

 そう、19日の同時間帯のライバル番組との横並び視聴率もテレビ朝日系「ポツンと一軒家」(日曜・後7時58分)16・1%、日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」(日曜・後7時58分)15・6%などを抑え、トップだった。大河のメインターゲットのF3層(女性50~64歳)、M3層(男性50~64歳)、M4層(男性65歳以上)で最大のライバル「ポツンと一軒家」超えを果たしたと言える。

 制作トップの明るさはスタッフにも、いい形で“伝染”していた。初回放送後、長谷川ら出演者の色鮮やかな原色の衣装などに視聴者から「カラフル過ぎる」「目がチカチカして疲れる」などの声が上がった点について聞かれた制作幹部は「さまざまなご意見をいただいています」とした上で、衣装についても「時代考証に基づいています。当時は原色の衣装が多く、中間色はなかったと言われていることに基づいています」と胸を張って説明した。

 そう、昨年1年間の定例会見で欠けていたのは、この明るさと自信、そして前向きさだったんだと、私は気づいた。「いだてん」が42回連続1ケタだったため、大河ドラマの2ケタ視聴率自体が昨年2月3日の10・2%以来11か月ぶり。大河ドラマという“看板ドラマ”の復活が、元気のなかったNHKを明るくした。

 各局には、この番組の視聴率だけは譲れないという看板枠がある。NHKが大河なら、フジテレビは「月9」、TBSなら日曜劇場。この時間帯が好調だと局全体が一気に活気づく。2年前、「月9」ドラマの低迷で局全体が活気を失っていたフジが「コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命―」のヒットで息を吹き返し、一線の社員まで元気になったのを昨日のことのように思い出す。

 そして今、大河にも復活の時が来た。代々木の丘にそびえ立つ社屋を出て最寄り駅に向かう私の頭の中には、張りのある声で「麒麟がくる」について語るNHK幹部たちの表情が、くっきりと浮かんでいた。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆最近10年の大河ドラマ初回の平均視聴率

 ▽10年「龍馬伝」23・2%

 ▽11年「江・姫たちの戦国」21・7%

 ▽12年「平清盛」17・3%

 ▽13年「八重の桜」21・4%

 ▽14年「軍師官兵衛」18・9%

 ▽15年「花燃ゆ」16・7%

 ▽16年「真田丸」19・9%

 ▽17年「おんな城主 直虎」16・9%

 ▽18年「西郷どん」15・4%

 ▽19年「いだてん」15・5%

 ※数字は関東地区、ビデオリサーチ調べ 報知新聞社