アカデミー賞王手「パラサイト」の衝撃 “半地下”生活は対岸の火事にあらず

アカデミー賞王手「パラサイト」の衝撃 “半地下”生活は対岸の火事にあらず

 韓国映画として初のカンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)を受賞し、ゴールデン・グローブ賞ほか全世界で120以上もの映画賞をとった「パラサイト 半地下の家族」。ついに映画賞の最高峰たる米アカデミー賞でも、アジア映画として史上初めて作品賞にノミネートされ、大きな話題となっている。

 アメリカではすでにテレビドラマ化も決定するなど「半地下」フィーバーはとどまるところを知らない。こうした盛り上がりの中で公開された日本でも「アナ雪2」「スター・ウォーズ」といった超大作に続く初登場5位と大健闘。翌週も順位は落ちず、堅調な動員を見せている。その背景について映画批評家の前田有一氏が語る。

「ポン・ジュノ監督にはネットフリックス製作の前作『オクジャ/okja』(17年)が“ネット配信作は映画とは認められない”などと映画館業界から批判を浴び、高評価だったにもかかわらずパルムドールを逃した気の毒な経緯があります。もともと『母なる証明』(09年)の頃からカンヌでの評価はすこぶる高く、今回のパルムドール受賞は誰もが納得するところですが、米国のアカデミー賞にまで王手をかけたとなれば“事件”です。映画の主題である格差社会への批判が、韓国、欧州そして米国と、世界中で強い関心を持たれている証拠でしょう」

■世界に蔓延する格差社会を活写

 カビの生えた半地下住宅に暮らすキム一家は、ろくな仕事もなく困窮を極めている。だが長男のギウ(チェ・ウシク)がIT長者の屋敷の家庭教師に就いたのをいいことに、身内だと明かさずに妹ギジョン(パク・ソダム)を美術の家庭教師に推薦。彼らは狡猾に、屋敷にパラサイト=寄生し始めるのだった。

 監督が学生時代に金持ちの家で家庭教師のバイトをしたときの経験を生かしたオリジナル脚本。経済格差の上層と底辺の住民が交わった時の悲喜劇を、強烈な社会風刺とショッキングな結末で見せる(PG12作品)。

「真面目な労働者だったキム一家の父は、チキン店を開業して失敗し“半地下”生活に落ちぶれてしまった。そんな彼と“地上”の金持ち家族の暮らしぶりを鮮烈に対比させるため、両者の家は街並みごとセットで設計されました。ポン・ジュノ監督はかつて右派政権時代、反政府的な作風などと難癖をつけられ、国家情報院のブラックリストに入れられていたほどの気骨ある映画作家です。今回も、これほどの“格差表現”にこだわった映画作りからは、現代社会への強い怒りが感じられます」(前田氏)

 カンヌ映画祭のパルムドールは是枝裕和監督の「万引き家族」に続いて「パラサイト」が受賞。

 新自由主義経済がもたらした格差問題は世界規模で顕在化。それでも日本は対岸の火事だと思っている人は“半地下”からのSOSに気が付いていないだけだ。