「ToeJam & Earl: Back in the Groove!」レビュー

引用元:Impress Watch
「ToeJam & Earl: Back in the Groove!」レビュー

 1992年にメガドライブで発売された「ToeJam & Earl(トージャム&アール)」というゲームをご存じだろうか。主人公となる2人の宇宙人が宇宙船で航行中に事故に遭い、地球に墜落してしまった宇宙船のパーツを探して歩くというアクションゲームで、当時としては非常に斬新なルールや一風変わったグラフィックス、そしてファンキーなサウンドが、一部の熱狂的なファンを生んだ作品である。

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 このメガドライブ版の開発にゲームデザイナーとして携わったクリエイターGreg Johnson氏が立ち上げたHumaNature Studiosより、同作の最新作として企画されたのが、本稿で扱う「ToeJam & Earl: Back in the Groove!(トージャム&アール:バック・イン・ザ・グルーヴ)」である。

 2015年のクラウドファンディングを経て2019年3月に北米で発売され、この2020年1月9日には日本語ローカライズされたNintendo Switch版が、翌10日にはPlayStation 4版が国内にて正式発売となった(PC版、Xbox One版は国内でも2019年3月1日に発売済み。ローカライズはアップデートパッチにて対応)。今回そのSwitch版のレビューをお届けしていきたい。

【ToeJam & Earl: Back in the Groove Japanese PlayStation 4 Trailer】■ローグライクスタイルをいち早く取り入れた、メガドライブの怪作をリメイク

 まずは本題の前に、メガドライブで発売された「ToeJam & Earl」について説明しておきたい。北米や欧州では1991年に、日本では1992年に発売された本作は、3つの目を持った「トージャム」と、触覚のある太った「アール」のラッパー宇宙人のコンビが主人公となり、階層状になったフィールドで構築された地球上を歩き回って、飛散してしまった宇宙船のパーツを探して歩くというアクションアドベンチャーとして構築されていた。

 このフィールドはモードによってランダムで生成され、パーツが落ちている場所も遊ぶたびに変わるという、ローグライクゲームのスタイルを踏襲している。「プレゼント」として落ちているアイテムも、その中身は開けてみるまでわからない。中にはプレーヤーに害を及ぼすものもあって、この手のゲームらしい緊張感も備わっていた。

 メガドライブで本作をリアルタイムでプレイした筆者は、その面白さがわかるまでしばらくかかったものの、最終的にはエンディングを見るところまで遊んだが、難易度がかなり高く、セーブどころかコンティニューもなかったため、相当苦労したことを覚えている。

 その当時ローグライクスタイルのタイトルは家庭用ゲームではまだ少なく、画面分割での協力プレイができるなど、内容的にもかなり革新的なゲームシステムを持つ内容だったが、後のJohnson氏へのインタビューによれば、セールス的にはあまり芳しくなかったそうだ。1993年に発売された続編「ToeJam & Earl in Panic on Funkotron」はゲームシステムがガラッと変わり、横スクロールのアクションゲームとなってしまったことでファンを困惑させ、しかもこれは日本では発売されなかった。

 “記録よりも記憶に残るゲーム”の典型的な1本であり、筆者と同様に根強いファンは今も存在していて、2002年には初代に近いフィールド探索型の第3弾「ToeJam & Earl III: Mission to Earth」がXboxにて発売(日本未発売)された他、Wiiの「バーチャルコンソール」やXbox 360の「セガエイジスオンライン」などでも移植版がリリースされていた。

 そして本作「ToeJam & Earl: Back in the Groove!」は、前述の「ToeJam & Earl III: Mission to Earth」から数えても17年(日本では18年)ぶりの新作となる。セガのパブリッシングを離れ、Johnson氏が率いるHumaNature Studiosが2015年にKickstarterにおいてクラウドファンディングによる出資を募り、設定した目標額40万ドルをキャンペーン終了の2日前に達成し、最終的に50万ドル以上を集めて、開発が決定した。

 なおこのとき、家庭用プラットフォームでのリリースはストレッチゴールに設定されていて、その額には達成しなかったためPCのみの発売予定だったが、後にPS4、XboxOne、Switchでも開発されることが決まり、4年が経過した2019年3月1日に発売となった。ちなみに筆者は当時、このクラウドファンディングの存在に気づいておらず、一般発売後の購入組である。メガドライブ版のファンながら情報のアンテナを張れず、出資ができなかったことを今も悔やんでいたりする。

■トージャム&アールのラッパーコンビに加え、個性の異なる新キャラクターも登場

 ゲームのベースとなるルールはメガドライブ版を踏襲していて、最新作をうたいつつも、リメイク的な内容でもある。今回は地球の上空を宇宙船で観光中に、アールが間違ってスイッチを押してしまった「ブラックホール生成機」によって発生したブラックホールに地球ごと吸い込まれた彼らが、なぜか洗濯機(ブラックホールに繋がっていた!?)から吐き出されて階層状になってしまった地球を舞台に、バラバラになった宇宙船のパーツを探して歩くというハチャメチャなストーリーが展開していく。

 ここで注目なのは、今回はプレーヤーキャラクターがトージャムとアールの2人に加えて、ガールフレンドの新キャラクター「ラティーシャ(Latisha)」と「リワンダ(Lewanda)」が参加しているということ。さらにメガドライブ版の姿を踏襲した「OLD SKOOL」のトージャムとアールが加わり、初期状態では6人のキャラクターから選択が可能だ。各キャラクターには初期ステータスと、特別なアビリティが設定されていて、プレイスタイルに合わせて好みのキャラクターを選んで始められる仕様だ。

 階層状になったフィールドは歩き回ることで、その形が明らかになっていく仕組みで、場合によっては地続きになっていないところもあるが、フィールドの端を歩くと突然現われる隠し通路や、「スプリングシューズ」や「イカロスの翼」など地面のないところを飛べるプレゼントを使うことで移動が可能だ。フィールドにはエレベーターがあり、これに乗ることで上層に移動し、散らばっている10個の宇宙船のパーツを探すことがゲームの最終目的である。

 フィールドを歩き回る過程で、タイル状に隠されているマップがオープンしていくわけだが、このときはプレーヤーに経験値が入るようになっている。“フィールドを歩き回ることでプレーヤーが成長する”という独自のゲームシステムは本作の最大の特徴であり、探索をより楽しいものとしている。

■地球の上は危険がいっぱい! 助けてくれるフレンドリーな地球人達も!?

 フィールドにはさまざまな敵キャラクター(作中では「地球生物(Earthling)」と呼称)が登場し、プレーヤーを追いかけてくる。その多くは人間なのだが、歩きスマホの少年、一心不乱に芝刈り機を転がす庭師、黒服とサングラスのエージェント、罵声を浴びせてくる弱虫少年、電動ドリルを手にした医者、セグウェイに乗った警備員、お金を巻き上げるボランティア勧誘員など、どいつもこいつもまともではない。

 それに加えて悪魔や宇宙人、怪人など、人間以外の敵も多数現われ、メガドライブ版以上のクレイジーな展開を見せていく。敵によっては接触したときにダメージを受けるだけでなく、持っているプレゼントを奪われてしまったり、それらを勝手に使わされてしまったりと、深刻な事態が発生することがあるのだが、誰がそういったことを発生させるのか、やられてみないとわからないのが悩ましいところだ。

 その一方で味方となってくれる地球生物も存在している。キラキラ光る星のエフェクトが見えるキャラクターが彼らであり、プレーヤーに対して恩恵をもたらしてくれる存在だが、力を借りるためにはお金が必要になる場合も多いため、フィールドに落ちているお金はできるだけ拾っておきたい。

 プレーヤーが敵に対して対抗する手段は、プレゼントを使うか、レベルアップをしてプレーヤーのステータスを上げること。前者はフィールド上に落ちているものを拾って使うわけだが、前述の通り開けてみるまではどんな効果をもたらすのかわからず、プレーヤーに対して大きなデメリットをもたらすものもあるため、できれば敵が少ない序盤からどんどん開けて使ってみることをオススメする。

 なお後者のレベルアップに関しては、経験値が一定以上を超え、フィールドのどこかに存在するニンジンスーツを着た老人「ワイズマン」に話しかけることで行なえる。このときはスピード(移動速度)、ライフバー(体力)、プレゼント(プレゼントに関する運)、サーチ(周囲のサーチ能力)、インベントリー(持てるプレゼント数)、運(その他の運)というステータスがランダムで3つ上がり、フィールドの探索がしやすくなるという具合だ。

■オンラインにより、気軽にマルチプレイが可能に

 「ToeJam & Earl」はメガドライブ版の頃からマルチプレイを前提としたゲームデザインが施されていたタイトルであり、今回ももちろん可能だ。マルチプレイならマップを探索するマンパワーが2倍になり、ピンチになった相棒を助けてあげることもできるなど、ゲーム的な恩恵は大きい。

 本作は画面分割によるローカルプレイのほか、オンラインによる手軽なマルチプレイも可能となった。メガドライブ版を遊んでいた当時は1度もマルチプレイの経験がなかった筆者だが、本作でめでたくマルチプレイのデビューを果たすことができた。

 今回の日本での発売にあたり、架け橋ゲームズが日本語ローカライズを担当している。ちょっと変な言い回しもあるが、元々がラッパーのスラングだらけのメッセージだったので、そこは仕方ないところだ。メガドライブ版や移植版では、メッセージのローカライズはされていなかったので、本編で初めてトージャムやアールが日本語をしゃべった記念すべき1本でもある。

 ゲームは上層へ行くに従ってフィールドに現われる敵の数が増え、一度に受けるダメージが大きくなるというバランスになっていて、後半は敵の執拗な追跡に悩まされることになるかと思う。セーブによる中断は可能だがコンティニューはないという、ローグライクゲームならではのルールがあり、上層まで進んだところでのゲームオーバーは精神的にも結構痛いので、プレゼントをもったいぶらずに積極的に開けて対応することを勧める。

 パーツを全て見つければその時点でゲームクリアとなり、新キャラクターとプレーヤーに恩恵をもたらす「帽子」がアンロックされるボーナスがもたらされる。繰り返し何度もやり込むような作りではないが、遊ぶたびにフィールドやプレゼントが変わるルールのおかげで、散歩をするような気分でたまに遊ぶと実に楽しい作品だ。セーブやオンライン機能のなかったメガドライブ版よりも気軽にプレイができ、ゲームのセールスポイントのひとつでもあったサウンドが大幅にパワーアップしているのもいい感じだ。

 1991年の発売当時、内容が革新的すぎてメガドライブユーザーにさえあまり認知されなかった「ToeJam & Earl」だったが、あれから30年近くが経過し、ゲームが多様化したことで、本作のシステムが受け入れられる土壌がようやく整ったように感じられた。ハードの進化やオンラインによって新たな付加価値も用意され、日本語ローカライズによって遊びやすくなった本作を、ぜひこの機会に楽しんでもらえればと思う。 GAME Watch,稲元徹也