「怪獣使いと少年」には救いがあった!『帰ってきたウルトラマン』がたどり着いた境地

引用元:マグミクス
「怪獣使いと少年」には救いがあった!『帰ってきたウルトラマン』がたどり着いた境地

 2020年1月2日に亡くなられた脚本家の故・上原正三さんの代表作として知られるのが、『帰ってきたウルトラマン』(以下、新マン)の第33話、「怪獣使いと少年」です。幼少時に見た「怪獣使いと少年」のトラウマ体験と、それを払拭してくれた新マンの『ウルトラマンメビウス』への客演について、ライターの早川誠一朗さんが語ります。

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「勝手なことを言うな、怪獣をおびき出したのはあんたたちだ」

「新マン」こと郷秀樹は、逃げ惑う群衆の悲鳴に背中を向けたまま、暴れまわる大怪獣ムルチを硬い表情で見上げているだけでした。

 当時、小学校低学年くらいだった筆者には、難しい話は分かりません。とはいえ、良少年が受けていたいわれなきいじめと迫害の酷さと、ムルチを封印していた善良な宇宙人、メイツ星人が地球人によって虐殺されたことは理解できました。

 陰惨を極める展開に驚きながらも、最後はウルトラマンがなんとかしてくれる、ウルトラマンのカッコいいところ、スペシウム光線を撃つところが見たい。その程度のことしか思っていなかったはずです。

 だからこそ、怪獣が現れ人を襲っているのに目もくれず、微動だにしない郷秀樹の姿は、純粋な恐怖でしかありませんでした。

 ウルトラマンが怒っている。
 ウルトラマンが地球人を見捨てた。
 ウルトラマンは僕らを見捨てた!?

 ウルトラマンに憧れる少年にとって、絶対的なヒーローに愛想をつかされる恐怖は、耐えがたいものでした。

 最後はなぜか僧侶の姿で現れた伊吹隊長の説得で変身してムルチを倒してくれたものの、これからもウルトラマンは僕らのために戦ってくれるのか、次の回が放送されるまで心配で心配でしょうがなかった記憶があります。というか伊吹隊長、郷がウルトラマンだと知ってたんですね……。

 それから十数年が経ち、当時大学生だった筆者は自分が見た話がウルトラシリーズきっての問題作である「怪獣使いと少年」であることと、脚本を担当した上原正三氏が提出済みの脚本を除けば最終回まで干されてしまったこと、東條昭平監督が助監督に降格され、活躍の場を他の特撮作品に移したことなどを知りました。

 実は脚本段階ではもう少しマイルドな内容になる予定で、作中に一般人代表として登場する坂田家の面々や、郷が良少年をかばうシーンが入るはずだったのですが、映像では東條監督がそういった部分をカットしてしまい、凄惨極まりない作品になってしまったそうです。