たけしの「お笑いウルトラクイズ」のトンデモ舞台裏<3>

たけしの「お笑いウルトラクイズ」のトンデモ舞台裏<3>

【ダンカンの笑撃回顧録】#23

 たけしさんは優しい、時にはサメにのまれるようなことをさせるけど(沖縄の海のロケでジンベエザメに下半身を本当にのまれました)、やっぱり優しい。たけしさんは沸騰しているヤカンのお湯をまき散らしたりするけど(驚くほど熱いよー!)、ホントに優しい。

 たけし軍団が体を張って行う番組収録の時にはリハーサルの際、われわれ以上にボケて転倒してケガをしないようなセットになっているか、クギが出ていたり床に不自然なひっかかりがないかをわれわれ以上に細かくチェックしてくれたのです。

 でも、たけしさんの本当の優しさはそういうことをはるかに超えた、ダメ芸人のもがき苦しんでいる心情を「このバカ野郎!」と口では言いながら、そこはかとなく思ってくれるところなのです。正直、実に残念でならないことですが、アントニオ猪木さんのモノマネをする春一番が47歳の若さで逝ってしまいました。原因はハッキリ言って「酒」です。酒で入院することもありました。そして、「お笑いウルトラクイズ」のロケ中もロケバスの中にアルコールの臭いがしたので、全員が「春、酒隠してるだろー!?」と疑って荷物や身体検査までしたことがありました。

 その結果、炭酸飲料水の缶に酒を入れ替えるという巧妙な手口が発覚したのでした。常識で考えたら、テレビのロケ中に飲酒はダメでしょう? でも、その時の春ちゃんはもう治外法権というか? みんなから笑って突っ込まれ、終わっていたのですから、ある意味、スゴイ男だったのかもしれません。

 ただし、たけしさんだけは違ったのです。一緒になって笑った後、春ちゃんに「酒でやられちゃうのはもったいないよ! 芸人は続けてなんぼのところがあるからさ、体だけはなぁ……オイ、ダチョウ、春の酒、見てやってくれよ!!」と同じ太田プロだったダチョウ倶楽部に春ちゃんの飲酒の管理を託したのでした。別の事務所のアル中芸人にそこまでします?

 その日から、春ちゃんを任されたダチョウの3人は夜になると交代で春ちゃんに電話を入れて「飲んでないよな?」「飲んでません……」と会話で飲酒のチェックを始めたのでした。

 そんなある日、リーダーの肥後ちゃんがいつものように「飲んでないか?」と聞くと「飲んべばでん~」とロレツの回らない返答が……。「オイ春、おまえ飲んでるだろうー!?」「いげ、一口ぼ飲んべばべん~△+□☆~」「ウソつけ、オイ!」と詰め寄るリーダーの受話器の向こうからはカランカランとグラスに入った氷の音が響いていたというのです……。酒で外さない春ちゃんらしいすてき(?)なエピソードだけど、う~ん、やっぱり早すぎたよなあ……。

 ちなみに、春ちゃんの告別式の時、芸人のエスパー伊東とみつまJAPA’Nがビニール傘一本で本気のケンカをする騒ぎがありました。芸人てホント、厄介です……。

 話はそれましたが、たけしさんは心底優しい、ダチョウも出川も違う事務所なのに育てちゃうんだから……海くらいのでっかい器なんだよ、きっと……。=つづく

(ダンカン/お笑いタレント・俳優・放送作家・脚本家)