【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】#5
2019年12月12日にこの世を去った梅宮辰夫さん(享年81)。梅宮さんにとって遺作の著書となったのが現在発売中の「不良役者 ~梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚~」(双葉社)だ。自らの映画人生とともに伝説の役者たちとの交流がつづられた珠玉のエピソードの数々を一部再構成してお届けします。
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東映が誇る任侠映画のスターが高倉健さんなら、実録ヤクザ映画のスターが菅原文太さん。「文太さん」じゃあ、よそよそしいから「文ちゃん」と呼ばせてもらうな。
文ちゃんとはもちろん「仁義なき戦い」で共演したけど、俺の「不良番長」シリーズにもゲスト出演で何度も出てもらった。数えたら、8作もある。ゲストというより立派なレギュラーだよな。
実は、文ちゃんは俺にとって恋のキューピッドでもあるんだ。
ちょうど「不良番長」の撮影中だったかな。銀座の有名なクラブに美人の外国人ホステスが入ったという話を耳にし、これは行かなくっちゃと思ったわけさ。ただし、相手は外国人だし、「さて、どうしようかな」と思ってたとき、撮影所で文ちゃんに会ったんだよ。
「今晩、予定ある?」
「別にないよ」
「じゃあ、俺に付き合ってくれない」
「分かった」
こんな調子ですぐに話がまとまった。普通、文ちゃんと俺が銀座のクラブに行けば、ホステスはみんなキャーキャー騒ぐんだけど、お目当ての外国人ホステスは知らんぷりだった。俺たちが役者だってことも知らないんだから、当然と言えば当然なんだけどな。
美人でスタイルはいいし、性格もホステスにありがちな、すれっからしのところがまるでない。俺は一目惚れした。店が看板になると、俺は彼女を連れ出し、六本木の英国調の静かなバーへ行った。もちろん、付き添い役の文ちゃんも一緒。
明け方の3時くらいまで飲んだのかな。俺と彼女がずっと話している間、文ちゃんはカウンターでひとり飲んでいた。男っぽくて、いい人だったよね。
もう読者は察したと思うけど、このときの女性が俺の女房、クラウディア。文ちゃんには今でも感謝しているよ。
■小林旭とマイク争奪戦
文ちゃんはクラブやスナックで歌うのも大好きだった。そこで繰り広げられたのがマイクの争奪戦(笑い)。相手は小林旭。彼も文ちゃんと同様に一度マイクを持ったら離さないタイプだからさ。でも、それでケンカすることもなかった。2人とも楽しい酒だったよ。
文ちゃんの十八番は「夜霧のブルース」。ある夜、クラブをハシゴして4件目の店のドアを開けると、いきなり「夜霧のブルース」が流れてきたことがあった。文ちゃんは上機嫌さ。
「おっ、段取りがいいじゃねえか」
そう言って、急いでステージに上がると、「このヤロー、俺の番だ」の怒声がした。怖いお兄さんが歌う番だったんだ。
文ちゃんは「すまねぇ、すまねぇ」と言ってマイクを返したよ(笑い)。相手も天下の菅原文太が頭を下げたんだから、それ以上何も言わなかったぜ。 (つづく)
「仁義なき戦い」で共演 文ちゃんは俺の恋のキューピッド【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】
引用元:日刊ゲンダイDIGITAL