鶴田浩二さんにはゴルフで苦い思い出も…【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】

鶴田浩二さんにはゴルフで苦い思い出も…【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】

【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】#4

 2019年12月12日にこの世を去った梅宮辰夫さん(享年81)。梅宮さんにとって遺作の著書となったのが現在発売中の「不良役者 ~梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚~」(双葉社)だ。自らの映画人生とともに伝説の役者たちとの交流がつづられた珠玉のエピソードの数々を一部再構成してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

 俺が東映に入社して最初に仁義を切った相手は鶴田浩二さんだった。仁義を切るたって、人を介して、ちゃんと初対面の挨拶をしたってこと。要するに、後輩として大先輩に筋を通しただけなんだけどね(笑い)。

 そのとき、鶴田さんが俺に言ってくれた言葉が素晴らしかった。

「後輩は先輩を利用すればいい。つまり、おまえは俺を利用して大きくなっていってくれ」

 その後、俺も後輩にこの言葉を贈るようになった。世の中、そうやって回っていけばいいんだよ。

 そんな鶴田さんとの初共演は思わぬ形で巡ってきた。「荒原牧場の決斗」という映画で鶴田さんと高倉健さんが共演するはずだったんだ。ところが、クランクイン直前になって健さんが降板。鶴田さんは俺を呼び出して、こう言った。

「高倉がこの映画をやりたくないって言うんだよ。だから、辰夫が代わりをやってくれ」

 つまり、鶴田さんじきじきの指名で、俺は健さんの代役を務めることになった。実は、健さんは鶴田さんを嫌っていたんだ。健さんの演技を見た鶴田さんが「ズブの素人だ」と挑発的な発言をしたもんだから、頭にきた健さんが鶴田さんを撮影所裏に呼び出したなんてこともあったらしい。

 鶴田さんは自分の演技に自信がある。だから、他の役者には厳しい。たとえば、セリフ覚え。あの人は自分のセリフどころか、相手のセリフも全部頭に入れて、時間通りに撮影現場に現れた。どんなに女と遊ぼうが、どんなに深酒しようが、そこはブレなかった。

 当然、セリフが頭に入ってないような役者は酷評されることになる。

 ところで、俺も鶴田さんには苦い思い出がある。それはゴルフでの賭け。もともとゴルフは俺が鶴田さんに教えたぐらいだから、実力はこっちのほうが上。事実、最終ホールの前までは俺の圧勝だった。でも、最後の最後にどんでん返し。というか、途中で最終ホールに勝ちさえすれば、それまでどんなに負けてても賭け金すべてを持っていけるルールに変更された。

 当初、賭けは日頃の俺への感謝の気持ちもあってやったのかなと思ってた。それまで俺は鶴田さんのために女優との密会場所を探すようなことを散々やらされていたからね。しかし甘かった。

 最終ホールに勝った鶴田さんは無慈悲にも俺から15万円をむしり取っていった。当時の俺にとっては映画3本分のギャラだぜ。今の貨幣価値なら150万円くらいか。

 あまりにも悔しいし、しゃくに障るから、ゴルフクラブを木に叩きつけて、全部へし折った。

「もう金輪際ゴルフなんかやらねぇ」

 そう思ったよ。事実、この日を境に俺はゴルフクラブを握らなくなった。(つづく)