劇団新派・河合雪之丞 江戸川乱歩もびっくり!? 黒蜥蜴“正体”の新解釈

引用元:夕刊フジ
劇団新派・河合雪之丞 江戸川乱歩もびっくり!? 黒蜥蜴“正体”の新解釈

 【妖艶!黒蜥蜴奇譚】

 このところ、江戸川乱歩作品に力を入れているのが、130年の歴史を誇る劇団新派。ユニークなのは、素性がまったくわからない謎の美女、黒蜥蜴の“正体”について新解釈を見せたことだ。

 2016年の初演の黒蜥蜴(河合雪之丞)は「この世の美しきものすべてを手に入れたい」という希代の女賊。彼女のためなら命を差し出してもいいと思う雨宮(劇団EXILE・秋山真太郎)をはじめ、部下を操り、驚くべきからくりで狙った獲物を手に入れる。

 狙いは宝石商の美しい令嬢早苗(春本由香)。雪之丞が「地上に舞い降りた黒い天使」と評した黒蜥蜴は、強靱(きょうじん)な精神の持ち主ながら、どこか寂しげ。いつも「本当に欲しいものだけが手に入らない」と悲しみを抱いた女というのがポイントだ。

 一方、彼女の挑戦を受けて立つ明智小五郎(喜多村緑郎)はさっそうとしながらもどこか愛嬌(あいきょう)のある名探偵。聞けば、喜多村は「黒蜥蜴」の大ファンで、自ら脚本を書いたこともあったとか。念願かない、とてもうれし気に演じていたのが印象的。

 新解釈がされたのは、18年にサンシャイン劇場40周年記念の一環で上演された「喜多村緑郎・河合雪之丞自主公演 怪人二十面相~黒蜥蜴二の替わり~」。ここで雪之丞は怪人二十面相に。てことは、二十面相も美女?!

 それだけでもびっくりのオリジナルだが、注目は怪人二十面相から財宝を狙われる富豪河野家の令嬢不二子(春本)だ。

 「黒蜥蜴」の早苗とよく似た役のようだが、さにあらず。心に屈折を抱えて育った不二子は、二十面相から美しすぎる悪の華を見せつけられ、魅了されたまま、若き日の明智小五郎(喜多村)の手が届かないところに消えてしまう。もしかしてどこか寂しげな不二子こそがあの女の正体…。

 新派「黒蜥蜴」は評判を呼び、同年は「黒蜥蜴 全美版」も上演された。ゼンビバンって。すごい言葉だが、仮面舞踏会、豪華ホテル、タワー、夜の港…舞台によみがえる昭和の闇に引き込まれた。

 乱歩先生が活躍していた昭和初期にオープンした三越劇場での上演というのもまたリアル。今年は「黒蜥蜴 緑川夫人編」も上演されている。どこまで進化するのか新派の「黒蜥蜴」。まだまだ妖しく黒光りしそうだ。(コラムニスト・ペリー荻野)

 ■河合雪之丞(かわい・ゆきのじょう) 俳優。1970年11月29日生まれ、49歳。東京都出身。88年に国立劇場歌舞伎俳優研修を修了し、同年に市川猿之助(現:猿翁)に入門。市川春猿を名乗る。スーパー歌舞伎などで活躍する一方、劇団新派には2010年より客演を重ね、17年に入団。河合雪之丞と改名した。