M-1に強烈な爪痕残した ぺこぱ“掟破りの優しいツッコミ”

M-1に強烈な爪痕残した ぺこぱ“掟破りの優しいツッコミ”

【2020 新春「笑」芸人解体新書】#2

 ミルクボーイが優勝した昨年末の「M―1グランプリ」で、彼らと同じくらい強烈な印象を残したのが「ぺこぱ」である。彼らはファイナリストの中で最後に登場して、決勝常連組の和牛を振り切り、最終決戦にコマを進めた。3位という結果に終わったものの、その革新的な漫才スタイルは世間に衝撃を与えた。

 明るい表情のシュウペイ(32)がボケを担当し、派手な髪形とメークに加えてキザな話し方や動きにもやたらとクセがある松陰寺太勇(36)がツッコミを担当する。

 本来、ツッコミとは常識を盾にしてボケの言動を訂正するものなのだが、松陰寺はシュウペイを否定せず、そこに理解を示すのだ。

 タクシー運転手を演じるシュウペイが道端で手を挙げている松陰寺を車ではねると、松陰寺は「いや、痛えな、どこ見て運転してんだよ……って言えてる時点で無事でよかった」と言う。さらに、続けてもう一度ぶつかったときにも「いや、2回もぶつかる……ってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない」と言う。

 ツッコむと見せかけてツッコまない。松陰寺の「優しいツッコミ」は、漫才の常識を覆す画期的なものだった。この変則的な漫才が高く評価された理由のひとつは、10番目という順番が良かったからだろう。観客がいろいろなタイプの漫才を一通り味わった後だったからこそ、掟破りの優しいツッコミがこの上なく斬新に見えたのだ。

 彼らのここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。ボケとツッコミを入れ替えたり、松陰寺が着物を着たり、ローラーシューズを履いたり、試行錯誤を繰り返した末にようやく今の芸風にたどり着いた。

 2019年には元日の「ぐるナイおもしろ荘」で優勝を果たしたが、ブレークすることはできなかった。しかも、5月には当時の所属事務所だったオスカープロモーションがお笑い部門を閉鎖したため、契約解除の憂き目に遭っていた。その後、カンニング竹山の仲介でサンミュージックプロダクションに入った。

「ぺこぱ」は韓国語で「お腹がすいた」という意味だという。彼らはその名の通りのハングリー精神を発揮して、逆境から這い上がってチャンスをものにしたのだ。

(ラリー遠田)