NHK紅白歌合戦の低視聴率は想定内 令和時代は“多様化路線”に大転換

NHK紅白歌合戦の低視聴率は想定内 令和時代は“多様化路線”に大転換

「案の定の数字」――。落胆とも自虐とも諦念とも取れる声がNHK局内に響いているという。大みそかの第70回NHK紅白歌合戦が平均視聴率37・3%(後半=ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)となり、紅白史上最低を更新。目玉歌手も少なく、リハーサル時から現場を取材した記者から「高揚感がない。スカスカ」といった声が上がるなど、低視聴率は想定内だったようだ。

 演出は「神回」とも呼ばれた前回(41・5%)の焼き直しの感は否めない。冒頭、新国立競技場からのスタートで夏の東京五輪へ向けた盛り上げを狙った場面はまだしも、VTRやディズニー映画など企画コーナーが増えて生の歌番組であることの臨場感が薄れ、肝心のステージでも歌と無関係のパフォーマンスが割り込んでいく。徳光和夫さんはラジオでこう言った。

「原点を失っているんじゃないかな。歌合戦としての要素が年々希薄になっている」

 その歌でも、お茶の間の視聴者は「またか」と「飽きた」の連続ではなかったか。白組スタートが郷ひろみで、32回目となる紅白ステージで歌ったのが「2億4千万の瞳」。ヒット曲とはいえ、1984年リリースの楽曲を何度も歌わされて本人も飽き飽きしていたとしても不思議じゃないし、42回目の石川さゆりも「津軽海峡・冬景色」、23回目の松田聖子もかつてのヒット曲のメドレーである。

 美空ひばりのAIでの復活もビミョーで、徳光さんは「一番がっかりした。あれでしたら、ひばりさんの姿でもっとうまくできたのでは」と言っていた。AIにこだわらず、「昔の映像を取り入れたりして」との指摘に視聴者はうなずくのではないか。

 ただ、その一方で、米ハードロックバンドKISSが登場したり、松任谷由実がラグビーを歌った名曲「ノーサイド」、竹内まりやの人生賛歌「いのちの歌」などには、「感動した」との声もSNSには数多く見受けられた。そして、次回以降への希望もあった。氷川きよし(42)とMISIA(41)の“紅白”を超えた「多様性」志向だ。

 氷川は2019年にリリースした演歌「大丈夫」をワンフレーズ歌うと、まるでV系バンドのような黒のボディースーツにバッチリメークで「限界突破×サバイバー」を熱唱。このところ、メークに生足披露と“女子力”の高さが話題になっていた「演歌界のプリンス」の“キャラ変”を全国に知らしめた。リハーサル後のインタビューに現れた際はグッチのレディースのコートに身を包み「時代も変わったことですし、もっと自分らしくイメージをぶち壊したい。これからはきよし君にはサヨナラして“Kiiちゃん”らしく、ありのままの姿で紅白で輝きます」とコメントしていたが、その通りのステージだった。

■「桃組」結成も

 紅組の大トリ、MISIAもまた、LGBTQの象徴・レインボーフラッグを背に、ドラァグクイーンらがダンサーやコーラスで登場。紅白入り乱れてまるで“桃組”と化したステージになり、もはや男女対抗という紅白ルールは完全に形骸化してしまった。芸能リポーターの川内天子氏がこう言う。

「NHK自ら紅白対決というルールを覆したかのよう。氷川さんの自分らしさを採用するという時代を読んだ企画力は称賛に値すると思います。また氷川さんとMISIAさん2人の圧倒的な歌唱力が説得力となり、視聴者は拒否反応どころか高評価。未来が期待できる展開でした」

 特別出演ばかりが増えすぎて本来の歌合戦の体も崩壊。紅白復活の起死回生策は、ダイバーシティー路線への思い切った転換かもしれない。