テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』こそがニューヨークパンクの先駆的アルバム

引用元:OKMusic
テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』こそがニューヨークパンクの先駆的アルバム

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はテレヴィジョンの『マーキー・ムーン』を紹介する。パンクと言えば、セックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドら英のグループが多く語られるが、彼らに影響を与え、パンクロックの精神を世に知らしめたのは、テレヴィジョン、パティ・スミス、ラモーンズなど、ニューヨークで活躍したロッカーたちである。特にテレヴィジョンはメジャーデビューこそパティ・スミスに先を越されたものの、デビューアルバムとなる本作のリリースによって、その実力を世界に知らしめただけでなく、ロックスピリットを失いつつあった音楽業界のカンフル剤としても大きな役割を果たした。ただ、彼らの全盛期はデビュー前から本作リリース後の少しであることも確かで、78年に発表した『アドべンチャー』の仕上がりは本作に及ばなかった。その後、休止・再結成を繰り返してはいるが、キレのいいバンドという以上の成果は残していない。
※本稿は2015年に掲載

テレヴィジョン結成時のアメリカ音楽業界は…

テレヴィジョンが結成されたのは1973年。この時代のロック界の様子はと言うと、60年代中・後期に見られたクリームやMC5のような“音が大きくてハードなロック”から、キャロル・キングやジェームス・テーラーに代表される“身近な心象を描いたシンガーソングライター的なサウンド”へ移行しつつあった時期である。時代は高度成長期から安定期を世界的に迎え、ロックもゆったりとした大人のサウンドが求められるようになってきていた。それまでロックを聴いていた若者たちも気付けば社会人になり、大手レコード会社は新たな若手リスナーを獲得することに併せ、青年リスナーが続けて聴ける新たなロックを供給する必要に迫られていた。

そんな事情もあって、72~3年頃のヒットチャートは、カントリーロックやポピュラー寄りのロックが大半を占めている。この後しばらくするとAORやダンス(ディスコ)音楽が全盛となる。当時の、いわゆる王道のロックファンたちは、概ねレコード業界の動きにのっとってロックを聴いていたと僕は記憶している。