NHKは沢尻エリカ容疑者から賠償や違約金を取れるのか…民事訴訟の専門家が解説

【テレビが10倍面白くなるコラム】

 合成麻薬MDMAの所持で逮捕された沢尻エリカ容疑者は、テレビ番組の放送中止やCMの打ち切り、DVD販売停止などで、数億円の賠償を請求されそうだと、ワイドショーやネットは大騒ぎだ。とりわけ、NHKは来年の大河ドラマ「麒麟がくる」(総合日曜午後8時)で織田信長の妻という重要な役に沢尻容疑者を起用し、すでに10話を収録済みで、撮り直しや宣伝費などで相当の損失を被るという。

 これまでも、芸能人に不祥事や不倫騒ぎがあると、巨額の賠償や違約金が話題になってきたが、では実際に支払われているのだろうか。実は、放送中止などが損失にあたるかどうかの判断は、難しいらしい。民事訴訟が専門の大学法学部教授はこう解説する。

「弁護士さんたちは賠償を請求する側なので、お金は取れますと言うでしょうが、物理的に放送できなくなったのならともかく、放送するかしないかの判断は、テレビ局側がしているわけです。沢尻エリカ容疑者の出演シーンをそのまま放送したっていいわけで、それによって番組イメージが損なわれるとか、視聴率が下がって損害が出るというのならば、それを立証し、具体的な損害額を確定しなければなりません。放送していないのに、そんなことは無理です。たとえ、契約に不祥事や賠償に関する条項が盛り込まれていたとしても、はたして法律的に適正かということは別なんです」

 放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に出演していたピエール瀧が、コカイン使用で起訴された時、NHKは「何らかの賠償を検討したい」とコメントしたが、有罪判決を受けた後も賠償を請求したという話は聞かない。今回の沢尻容疑者に関しても、「警察の捜査の状況を見ながら対応する」と慎重なのは、賠償請求がそう簡単ではないことがわかっているからだろう。

「ましてや、民放は放送中止で芸能事務所に貸しをつくって、なかなか出演してもらえない別の人気タレントを優先的に回してもらった方が得ですから、賠償金なんて請求しませんよ」(テレビ番組制作会社幹部)

 そもそも、沢尻容疑者が起訴されるかどうかは微妙なところで、不起訴・起訴猶予になった場合、沢尻容疑者側が容疑を全面否認して、番組出演とギャラ支払いの契約継続をテレビ局に求めることだって、あるかもしれない。

 沢尻容疑者の主任弁護人は、無罪請負人と呼ばれる河津博史弁護士だ。まだまだ、エリカ絶体絶命ということでもないだろう。

(コラムニスト・海原かみな)