紅白回顧 令和初、アスリートの力が盛り上げに一役 総じてさらりとした印象も

引用元:産経新聞
紅白回顧 令和初、アスリートの力が盛り上げに一役 総じてさらりとした印象も

 令和となって初の、そして、東京五輪・パラリンピックが開催される「2020年」を見据えた紅白歌合戦が終わった。2020年を見据えるにふさわしい紅白となったが、昨年の「平成最後の紅白」が良くも悪くも、アクの強いものであったことを踏まえると、さらりとした紅白になった感も強かった。(兼松康、石井那納子)

 アスリートたちが前面に押し出された紅白だった。

 終盤の「風が吹いている」(いきものがかり)、「栄光の架橋」を含むメドレー(ゆず)、今回、初披露された「NHK2020ソング」の「カイト」(嵐)と並んだ終盤は、来年の東京五輪・パラリンピックを想起させた。そして、松任谷由実さんの「ノーサイド」は、世間をにぎわせたラグビーの日本代表選手を涙させるに十分な曲として会場のNHKホールに響き渡った。

 過去の五輪や来年の期待選手の映像、ラグビーワールドカップ(W杯)で、史上初のベスト8に進出した日本代表フィフティーンの映像が流れ、その感動を思い出させ、来年への期待を抱かせた。

 松任谷さんの「ノーサイド」では、目に涙を浮かべるフィフティーンの姿が見えるなど、映像の力もあいまっているが、音楽が感情に働きかける力の強さを感じずにはいられなかった。

 新顔の面々も、新しい音楽の魅力を感じさせるのに十分だった。レコード大賞を獲得した「Foorin」は、子供たちから人気に火がついた「パプリカ」を「紅白スペシャルバージョン」で披露。今回は英語バージョンを歌う「team E」も出場。子供たちから世代を超えて伝わった人気を、さらに海外にも広めようとする勢いで、楽しいステージを披露した。

 昨年、初出場を果たしながら、直後にメンバーのスキャンダルが発覚し、今回は4人組(前年は5人組)での出場となったムード歌謡グループの「純烈」は、「DA PUMP」とダンスをコラボして、「純烈のハッピーバースデー」を歌唱。メンバーの小田井涼平さんは「会場はお客さんがすごく盛り上がっていた。いろんな歌手のいろんなダンスを会場の皆さんも踊っていただいて。(出場者の)皆さんが一緒にやる演目も多くて。会場もテレビの前の皆さんもノリノリでは」と2度目の紅白の大舞台を振り返った。

 今年は歌手としての出場が実現しなかった米津玄師さんだが、「パプリカ」や「カイト」に加え、初出場の菅田将暉さんの「まちがいさがし」の作詞作曲者でもあることから、十分に存在感を発揮した。昨年は中継先からの歌唱で話題をさらったが、今年は「カイト」を嵐が歌唱する前にVTRで登場。「今の自分は誰かに生かされている。日々を漫然と生きているとそういうことを忘れがちになるが、忘れてはならないと自分を戒める気持ちで作った」などとコメントし、再び視聴者に強い印象を残した形だ。

 三山ひろしさんが124人を引き連れて再び世界記録に挑んだけん玉、普段着に近いような姿で熱唱を見せたビートたけしさん、「紅蓮華」で初出場ながら大いにその実力を発揮したLiSAさん、King Gnuやオフィシャル髭男ディズムのフレッシュさも観客から大きな拍手を浴びた。

 また、氷川きよしさんは「紅白」の着物姿で登場し、歌唱曲「紅白限界突破スペシャルメドレー」と同様に、自らも“限界突破”したかのような吹っ切れた歌唱を見せるなど、見どころは多かった。

 LiSAさんは「終わったあとは大号泣で。本当に紅白に出たんだ」と感激の様子で話していた。それだけ、やはり紅白は大きな舞台ということだろう。

 一方で、VTR収録で楽曲が放送されたYOSHIKIさんと米ロックバンド「KISS」のコラボ「YOSHIKISS」が事前収録だったこと、試みは面白かったものの、やはり会話などはするべくもなく、どことなく冷たさが感じられた「AI美空ひばり」の企画、「おげんさんといっしょ」で「ドラえもん」を生歌唱しながら、「Same Thing」が事前収録だった星野源さんや、初出場ながら別スタジオからの中継となった竹内まりやさん…。収録場所やその他のさまざまな都合もあろうが、やや残念に感じられたのも事実だ。

 視聴者が、年末で帰省などして、普段の家族よりも多い一族でみんなで見る、というイメージも強い紅白歌合戦。ならば、送り出す側も一体となった演出も必要だった気がする。

 その一体感が強く打ち出されたのが第69回の平成最後の紅白だったともいえ、それが薄れたのが、良くも悪くも、さらりとした紅白になったのかもしれない。紅組のトリを務めたMISIAさんのステージで、LGBTを象徴するレインボーフラッグが振られたように、新たな時代にふさわしい紅白のあり方もあるだろう。ただ、年末のお祭りイベントとして、一体感は忘れてならない要素なのかもしれない。