AVの助監督経験も…木下ほうかの人間味は遠回りで培われた

AVの助監督経験も…木下ほうかの人間味は遠回りで培われた

【今週グサッときた名言珍言】

「ポポポヤ~ン」(木下ほうか/テレビ朝日「激レアさんを連れてきた。」12月14日放送)

 ◇  ◇  ◇

 いまや“イヤミ俳優”として唯一無二の存在となった木下ほうか(55)。番組ではブレークするまで33年の「超遠回り俳優」として紹介された。その遠回りのひとつが吉本新喜劇。デビュー後まもなく、彼が新喜劇に所属していたことは有名な話だ。そんな彼が、当時のギャグを実演したフレーズが今週の言葉だ。

 高2のとき、井筒和幸監督の映画「ガキ帝国」のオーディションに合格し、撮影現場を体験すると、役者になりたいという思いが募り、俳優養成コースのある大阪芸大に進学。卒業のタイミングで吉本興業が新人タレントを募集しているのを知った。

 それに応募すると、何千人の中から10人ほどの枠に合格。俳優志望だったため、新喜劇に配属された。積極的に前へ出て笑いを取ろうとしたら、先輩から「いらんことするな」とクギを刺されたこともあった。

 けれど、池乃めだかや間寛平からは「1回謝れ。またやれ。また怒られたら謝れ。そうせな絶対売れへんぞ。俺らはそうしてきた」(テレビ朝日「ブラマヨとゆかいな仲間たち アツアツっ!」15年10月17日)と励まされた。

 新喜劇では、ひと月に3タイトルを10日ずつ行う。新しいタイトルの台本は本番の前日に渡され、本読み1回、立ち稽古1回だけで本番を迎える。ひどい時には、主役が開演時間になっても現れず、打ち合わせもなし。それで皆、即興で主役のセリフを分担して、しのいだときもあったという。それでも客からクレームがくるどころか、ちゃんと爆笑を生んだ。

「そういったアドリブの重要さとか、臨機応変さとか、ものすごく鍛錬になりましたね」(洋泉社「アクターズ読本」15年6月26日発売)

 ブレークのきっかけとなった14年のドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ)では、独自性を出すために後輩たちと事前に検証したりもした。けれど、計画通りにいくとは限らない。そんなとき、生かされたのが新喜劇で培った「臨機応変さ」だったという(同前)。

 改めて俳優の夢を追い、新喜劇をやめた後は映像制作会社に入るも、AVの助監督をやることになってしまったり、西岡徳馬の付き人をわずか20日でクビになったり、自身がプロデュースして作った映画で大赤字を出してしまったりと、“遠回り”はした。けれど、その全てが彼の血肉となっている。

 イヤミ俳優としてブレークした今、「『いい人』と思われるようにイメチェンしていきたい」と冒頭の番組で語った。それもまた遠回りだ。けれど、遠回りしてきたからこそ、イヤミのキャラのはざまからにじみ出るいい人間味を醸し出している。

(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)