【令和元年 回顧】芸能事務所の苦悩「難しい」薬物対策…スパイ、泳がせ、通信傍受で網を張る捜査側

引用元:スポーツ報知
【令和元年 回顧】芸能事務所の苦悩「難しい」薬物対策…スパイ、泳がせ、通信傍受で網を張る捜査側

 2019年、女優、ミュージシャンら著名人の違法薬物事件が相次いだ。捜査当局は毎年のように覚醒剤や大麻所持などで1万3000人前後を摘発する。国内流入を阻止しようと陸・海・空とあらゆる網を張る。芸能事務所では「タレントの不祥事は損害賠償の責任を負うなどダメージが大きい」として、法令順守の講習などを実施するが、限界もあるという。

 「性善説に立ち、相手を信用して契約をしている。人権、プライバシーの問題もある。任意であっても、薬物検査なんて軽々にはできない」。芸能事務所幹部は違法薬物の対策などの難しさについてこう明かす。売人は著名人や富裕層ら“大口顧客”に接近し、違法薬物の取引で利益を上げる。そのカネは暴力団の資金源にもなる。不祥事が続いた際、ある芸能事務所は警察幹部や弁護士らを招き、法令順守などについて定期的に講習を行った。タレントが孤立しないよう、外部にも相談窓口を設けた。ただ、「契約タレントの人数が多ければ多いほど、対策は難しい」(同幹部)と苦悩を語る。

 捜査関係者によると、薬物・銃器などの摘発では3つの手法が主流だ。

 ▼通称「S(エス)」 Sは「SPY(スパイ)」の頭文字で、違法薬物の売人と接触できる協力者らを指す。売買の場所などを事前に知ることで、大量の違法薬物を押収したり、逮捕につなげることができるが、信頼関係を築くには時間がかかるという。「S」が別の捜査機関に逮捕されてしまうケースもあった。

 ▼コントロールド・デリバリー(別名・泳がせ捜査) 1992年の麻薬特例法施行で導入された。捜査関係者によると、税関の検査で不審な荷物を発見した際、いったん開封し、GPS発信機器を取り付け、元通りに戻し、宛先まで送る。装置は開封した際に居場所を発信する仕組みで、組織全体の摘発につなげる。協力者らが身分を隠して密売人に接触し、薬物取引を持ちかけて摘発する「おとり捜査」も一定の要件下で認められている。

 ▼通信傍受 2000年施行の通信傍受法では薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型の犯罪で通信事業者の立ち会いのもとで電話の会話内容などの傍受を認めている。16年12月の改正法では殺人、放火、窃盗など9類型が追加。法務省によると、昨年は82人の逮捕につなげた。計12事件で傍受した通話は計1万359回。覚醒剤取締法違反事件(営利目的)では、16日間で1899回に及んだ。今年6月からは通信事業者の立ち会いが必要なくなり、捜査がスムーズに進むようになった。

 今後も東京五輪・パラリンピックなどで訪日外国人客の増加が見込まれ、治安情勢は刻々と変化する。警察白書では薬物事件の摘発状況などについて、「依然として厳しい」とまとめている。 報知新聞社