聴くほどに味わい深いザ・バンドのデビューアルバム『Music From Big Pink』

引用元:OKMusic

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はザ・バンドのデビューアルバム『Music From Big Pink』を取り上げたい。ボブ・ディランのバックバンドを務めたことでデビューのチャンスを掴み、“ミュージシャンズ・ミュージシャン”と呼ばれるほど多くのアーティストに影響を与えたザ・バンド。名盤は数々あれど、やはりデビューアルバム『Music From Big Pink』は抑えておきたい彼らの代表作だと思う。ちなみにアルバムのジャケットを描いたのはボブ・ディラン。温かみのある色使いで、どこか力が抜けていて見れば見るほど味わい深い。まるでザ・バンドの音楽のようだ。
※本稿は2015年に掲載

アーティストに影響を与え、愛されたバンド

エリック・クラプトンが『Music From Big Pink』を「音楽人生を変えたアルバム」と評し、ジョージ・ハリソンが本作を爆買いして「いいから絶対に聴いたほうがいい」と周囲に配りまくったというエピソードが伝えられている。また、いかに彼らが愛されていたかは1976年にサンフランシスコで行なった解散ライヴ『ラスト・ワルツ』のゲストミュージシャンの顔ぶれが証明している。ボブ・ディランを筆頭にニール・ヤング、エリック・クラプトン、マディ・ウォーターズ、ヴァン・モリソン、ドクター・ジョン、ジョニ・ミッチェル、ボビー・チャールズ、ロン・ウッド、リンゴ・スター、ポール・バターフィールドなどのそうそうたるアーティストがザ・バンドの解散を惜しんで駆けつけたのである。このライヴの模様は後にマーティン・スコセッシ監督によって映画化されて話題になったが、それほど、アメリカではザ・バンドの解散は事件であった。

ちなみにザ・バンドの前身はアメリカのロカビリーシンガー、ロニー・ホーキンスのバックバンドだったホークス。メンバーは、リヴォン・ヘルム、ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル・ガース・ハドソンの5人。そのうちの4人がカナダ人であることはザ・バンドの音楽性と実は関係があるのではないだろうか。カントリー、R&B、ゴスペル、ジャズなどの影響を感じさせる彼らの音楽は、アーシーで渋いと同時にどこかフラットというか、不思議な温度感と奥行きを持っている。いわゆるアメリカっぽい泥臭さとかダイナミズムとは趣を異にするグルーブ、アレンジメントが印象的なのだ。

余談になるが、当時、『Music From Big Pink』に収録されているボブ・ディランの曲「I Shall Be Relesed」が大好きで、英語の歌詞をノートに書いて、勝手に訳していた。“いつの日にか私は解放されるだろう”というサビの部分を自分に重ね合わせ、そんな至福の瞬間を朝日が昇る神聖な景色とともに浮かべ、いつか自分にもそんな時が訪れるのだろうかと憧れていたのである。大人になった今でも、この曲の境地にはまったく至っていないが、リチャードの澄んだファルセットと美しいメロディー、シンプルで味のある演奏を聴くと胸が締め付けられる。