〈記者の目〉 新作「神の子」で作・演出家赤堀雅秋また腕ふるう 心にしみて後引く「ドラマなきドラマ」

引用元:中日スポーツ
〈記者の目〉 新作「神の子」で作・演出家赤堀雅秋また腕ふるう 心にしみて後引く「ドラマなきドラマ」

 人と人とのちょっとした関わりやボタンの掛け違い、そこから広がる誤解や疑念などを通して人間の本性、人生の機微を描くのを得意とする作・演出家の赤堀雅秋が、新作「神の子」でまた腕をふるった。赤堀と田中哲司、大森南朋によるユニットの4年ぶり上演。

【写真】M-1優勝!ミルクボーイ

 警備員の池田(大森)と五十嵐(田中)、土井(でんでん)は、休日にパチンコに行くのもいっしょ。仲がいいと言えば聞こえはいいが、ほかに行くところもなく、肩を寄せ合っているといった風情だ。池田は、ふとしたきっかけから田畑(長澤まさみ)らのボランティア活動に参加する。

 男3人の行きつけのスナックでは、シングルマザーのママ(江口のりこ)が、妙に色っぽい。ある晩、土井のストーカーまがいの行動を3人の前でぶちまける。しばらく後には、新たな問題が。想定できる流れだが、江口の自己分析しながらの独白がアラフォー女性の心情を訴えて説得力があり、一つの聞かせ所になっていて面白い。

 ドラマは、ボランティア仲間のウィンターキャンプの場面から“転調”する。哲学的な問いから、7人の男女の思惑、生き方までが垣間見える。

 先が見えず、どうしようもない中年男を大森が抑制を効かせて見せた。長澤は、リーダー的明るさの陰に、はき出せない悩みを抱えた複雑さをにじませた。でんでんの物言いに味があり、老境の悲哀がいい。ニートの若林にふんした赤堀が、何を言ってるのか分からないような叫び声を意図して発する難しさとこっけいさ、田畑にちょっかいを出す横山(永岡佑)のネチネチしたいやらしさなど小ネタが小気味よい。バレエ経験のある石橋静河の場面は、作者の優しさと余裕だろうか。

 それぞれのキャラクター、距離感などがていねいに描かれ、社会の底辺とは言わないまでも、決して裕福ではない、どこにでもいそうな人たちへのまなざしが暖かい。いくつかの歌謡曲が、人と人との結び付きが希薄ではなかった時代を想起させる。「ドラマなきドラマ」は、心にしみて後を引いた。(本庄雅之)

 ※30日まで東京・本多劇場。来年1月7~9日ウィンクあいち他で。