King Gnuが見せる現代ロックバンドのロマン、メジャーデビュー1年目で紅白

引用元:MusicVoice

 King Gnuが今年大みそかに放送される『第70回NHK紅白歌合』で初出場を決めた。先月、同局でおこなわれた出場者会見後、同番組のチーフプロデューサーは選考基準の一つに、ストリーミングでの再生数も意識していると明言した。今回の初出場者についても、Official髭男dism(ヒゲダン)などデジタル配信でのヒットが「顕著だった」とも述べ、更にKing Gnuについては「白日」のヒットは目覚ましいと明言した。メジャーデビュー1年目のバンドが紅白の舞台に上り詰めるまでの変遷を振り返りたい。

 今年1月にメジャーデビューしたKing Gnu。前身バンド「Srv.Vinci」として活動開始した2013年から、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界はバンドシーンで明らかな異彩を放ってきた。最初に多くのロックファンにその存在感を叩きつけたのは昨年の夏フェス。『FUJI ROCK FESTIVAL2018』では当時まだインディーズでありながらメインステージであるレッドマーキーを任され、そしてその期待を応えて沸かせ、耳の肥えた音楽ファンの間では一躍要注目バンドとなった。

 メインコンポーザーを務める常田大希(Gt,Vo)が同じく代表を務めるクリエイティブ集団「PERIMETRON」とのコラボレーションなどにより、楽曲のみならずヴィジュアル的な面からも独自の世界観を貫き続けているKing Gnuだが、そのインディペンデントな佇まいからメジャーデビュー決定時には多くのリスナーの間で驚きが走った。

 その後、メジャーデビューアルバム『Sympa』のスマッシュヒットやドラマ主題歌として一躍今年を代表する1曲となった『白日』などにより、メジャーバンドとしての確固たる地位を確立。『飛行艇』『傘』など主にストリーミング配信を軸にヒット曲を連発し、今回の紅白初出場に繋がる存在感をより幅広い層に示していった。

 King Gnuが音楽シーンに叩きつけた印象はかなり鮮烈なものだった。様々なバンドでサポートプレイヤーとしても活躍してきた新井和輝(Ba)と勢喜遊(Dr)によるヒップホップやブラックミュージックの気配を感じるビート感は一般的なJPOP/JROCKのテイストとは大幅に異なり、しかしメロディにはJPOPならではのペーソスやキャッチーさがしっかりと息づいている。インディーズ期のアルバム『Tokyo Rendez-vous』収録のキラーチューン『Vinyl』では歌謡曲のような湿った哀愁と不敵な艶を湛えた歌メロを歌い上げる井口理(Vo,Key)の歌声が一度耳にしたら忘れられないほどのインパクトを残し、彼らの存在を一気に表舞台へ引き上げたきっかけとなった『白日』では、儚くも力強い井口のハイトーンボーカルと常田の狂おしい低音ボーカルによるツインボーカルが危うさと背中合わせの美しさを醸し出し、いわゆる“美メロ”のロックバラードでありながらもKing Gnuにしか成しえない絶妙なバランス感覚をまざまざと表している。

 King Gnuの鮮烈さは彼らが前身バンド時代から貫き続けている唯一無二のセンスと、メジャーデビューによって一層洗練されたキャッチーさの絶妙なバランスの上に成り立っているといえるだろう。音楽とは本来芸術(アート)であるものだが、いわゆる“ヒット曲”として幅広い層に受け入れられるためにはある種商業的な戦略も必要になるものだ。サブスクリプションや動画サイトが音楽との出会いのメインステージとなった昨今では特に、戦略的でない限りすぐに飽きられてしまうかもしれない。

 しかし、その商業的戦略は時にミュージシャンが本来持ち合わせている独創性を奪ってしまう可能性もある。強すぎる個性は諸刃の剣。そんな音楽シーンの中で、King Gnuは不敵にも唯一無二の個性=音楽のアート性と商業的な成功を見事に両立させてみせたのだ。

 それは音楽性だけの話ではない。King Gnuの特異な美学は楽曲のMVやアートワークなどにも貫かれ、多角的なアプローチで楽曲の世界観を表現している。そのスタイルは奇しくもインターネットを介して音楽を映像などと合わせて楽しむのが当たり前になった現代の若者達の感性にジャストフィットし、まんまと市民権を得てしまった。

 過去のインタビューで、常田は「俺が『バンドをやる』って言って、3人が入ってきてくれて、スタッフも増えて……そういうストーリーに、ロックバンドとしての夢があると思う」と語っている。当初は常田のソロプロジェクトとして発足したSrv.VinciがロックバンドKing Gnuとして生まれ変わり現在の姿になるまでの間、途方もないストーリーを経てきたであろうことは想像に難くない。その間、自らのこだわりを曲げることなく貫きながらもポップスとして広く受け入れられる音楽性を貪欲に吸収し、作品に昇華して着実に世に放ち続けてきた4人の姿には、確かにロックバンドがメジャーシーンで活躍することへの夢があるように思える。彼らは自らの信じた音楽の在り方を初志貫徹し、誰よりも“ロックバンド”King Gnuを愛しているのだろう。

 鮮烈すぎるほどの個性と抜群のポップセンスを手に、音楽がマッハスピードで消費されるインターネット・ストリーミング時代を切り拓き名実共に台風の目のひとつとなったKing Gnuには、現代のロックバンドロマンが凝縮されている。

 King Gnuは確実に、今年の紅白歌合戦出場を経ることでさらにロックバンドとして大きな存在となっていくことだろう。彼らのようなバンドが、ロックバンドという形を選び音楽の世界を志す次世代の若者達にとって、無比のアジテーターとなる未来を見てみたい。【五十嵐 文章】