独自のスタイルを見出したシンガー、大貫妙子の傑作『ROMANTIQUE』

引用元:OKMusic
独自のスタイルを見出したシンガー、大貫妙子の傑作『ROMANTIQUE』

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回は大貫妙子の傑作『ROMANTIQUE』を紹介したい。最初のソロ作が出たのは『Grey Skies』(’76)だが、それ以前に属していた、山下達郎をリーダーとする、あまりにも有名なシュガー・ベイブの『Songs』(’75)を含めれば、デビューから40年、その間に驚くほど旺盛な創作活動を続けてきたのだと、そのディスコグラフィーを眺めながら心底びっくりしている。アルバム制作の合間にはライヴ活動もある。そればかりでなく、シングル曲、テレビや映画の主題歌、コマーシャルソング、他のアーティストへの楽曲提供も行なっている。おまけに執筆活動もある。ラジオのDJを担当されていたこともある。世界中を旅し、アフリカや南極といった、楽には行けないところにまで足をのばしている。おっと忘れるところだった、農作業もやっている…というのだから、この華奢な女性シンガーのどこに、これだけの仕事をこなすエネルギーがあるのかと。少しもマンネリに陥ることなく、それでいて長いインターバルを取ることもないのだから、尽きることのない創造力の泉、その深さを思ってしまう。

 今回も苦しみながら選ぶことになった。自分では決めきれず、何人もの人にフェイバリットアルバムを尋ねたりもした。それが錯綜に輪を掛けた。アルバムはどれをとっても高い完成度を示し、必ず珠玉とも言える曲が含まれている。坂本龍一をパートナーに制作された1980年代以降の作品をはじめ、CD/デジタル時代を迎えてリリースされてきた諸作はサウンドのクオリティーも非常に高く、洗練されており、新旧という感覚さえ惑わせられた。最初は他人の推薦を優先して、人気曲が多く含まれる『Cliche』(’82)を選ぶことに決め、繰り返し聴き返したのだが、結局、現在に通じる大貫妙子の透徹としたヴォーカルの、強く、美しさを今なお伝え、明確なコンセプトをもとに作られた傑作として『ROMANTIQUE』(’80)を選ぶことにした。まだ20代だった瑞々しい歌声を知る作品として、またアルバムを持っていない方にも、彼女が独自のスタイルを見出したたきっかけとなった作品とされるもので、代表作のひとつとして、ぜひ持っておきたい一枚である。
※本稿は2015年に掲載